ツナ綱
一つになる方法って世の中いろいろあるけど。例えば、性的な行為とか。例えば、心中するとか。例えば、食べてしまうとか。カニバリズムとか言うらしい。
そんな話を俺達は高いワインを傾けながらしていた。酔いに任せてふわふわと楽しく笑っていた。柔らかい霞の中にいるようだった。
「ねぇ、人間って美味しいと思う?」
「まさか。ファーストフード食べてる人間より、いい餌食べてる牛の方が絶対に美味しいに決まってる」
「でもいい食事してる人間は美味しいかも」
「人間にとってのいい食事、イコール、いい飼料とは限らないだろ」
「そっか」
一つになる方法って世の中にいろいろあるけど、どれも二人で同じ一つの個体になることは不可能だ。結局ばらばらのままで終わってしまう。
俺達もそうだ。
双子だけど、別の体、別の考え、別の好み、別の生き方。穏健派と過激派。
俺達はそんなの考えたこともなかったのに、何時の間にか巻き込まれてた。生まれた時から俺達は二つ意見の対立に利用されていた。
マフィアとか、派閥とか、なにそれおいしいの?レベルだったのに、大人は子供を置いてどんどん加速していった。
そしてまた何時の間にか、俺がボンゴレのボスになった。俺の双子の片割れは死んだことにして外国へ亡命した。
なんだそれ。中学生が背負うにしてはちょっと重すぎる人生なんじゃないの。
そう思ったけど、俺も中学生で、どうにもできなかった。子供は大人の前では無力だ。
「なあ、せっかく久しぶりに会ったんだから、もっと楽しい話をしよう」
「言い出しっぺから。何かないの?最近」
「なにも。そっちは?」
「同じくなにも」
寂しいなあ、って二人で笑った。弟は今生まれた時と全く違う名前を持って、ドイツ人として生きてるらしい。無茶苦茶だと思う。けど、無事に生きていてくれるだけで嬉しかった。この世の中で唯一信じられる俺の半身だった。
「生きているだけで、よかったんだ」
十代目、そろそろ。
…。
十代目。
…ん、ああ、俺か。
お悔やみ申し上げます。
俺の代わりに頼んだよ。いってらっしゃい。
俺の半身が死んだ。危険だと言われて殺された。なんてことだ。みんな今までずっとずっとあいつに頼ってきたくせに。俺なんて放っておいてくれたらよかったんだ。ただのドイツ人Aにしておいてくれればよかったんだ。俺はあいつが生きていれば、それだけでよかったのに。だから全て捨てて生きていたのに。
俺は葬式に参加してはいけないと言われてこうして自分の部屋でじっとしている。ついこの間まであいつが使ってた部屋。好きな色はオレンジ色。そういうところは変わってなかったらしい。
「なあ、俺、今日から沢田綱吉になったよ」
これだけは、と頼んで置かせてもらったずっと昔の家族写真に向って言った。家族四人、幸せそうに笑ってる。もう父さんも母さんも死んでしまったそうだ。俺はとうとう本当に何もかも失なってしまった。
20120126.