しますぐ




















坊、好きです。
好き、っちゅーか。
愛してます。


口から零れそうになる言葉をぐっと押し止めて、志摩は頭の中で繰り返す。そんな言葉、重い、とか、寒い、とか考える理性がまだあってよかったと安心する。

一応、志摩と勝呂は世間一般で言うそれとはずれていても恋人同士であった。しかし、好きですと告白して、付き合って、それからキスやらなんやらの行為へ移ったのではなかった。順序があちらこちらへ飛んで、無茶苦茶なまま今へ落ち着いたのだ。
だから志摩は時々不安になる。本当に、本当に勝呂は自分を好いているのだろうか。優しいから、嫌だと言えないだけではなかろうか。

わかっている。勝呂は嫌なことや許せないことはきっぱり言える人間だ。でも、思いやる心も深いから、やっぱり隠した気持ちがあるのではないかと疑ってしまう。
重たくて寒い言葉を吐いて、それで勝呂が万が一、自分に縛られてくれたらそれはとても嬉しいことだと志摩は思う。独占したがりであると十分に自覚していた。自分だけの、自分のためだけの勝呂が欲しいと、夜中に一人思ったりもする。
しかしそんなものは勝呂ではなくて、やはり彼はたくさんの人に囲まれ疎まれ、とにかく人生の波を泳ぎながら、志摩、と名前を呼ぶのがいい。そこまで考えて、自分は一体何様だ、と軽く笑う。するとノートに薬学の図を書いていた勝呂が顔を上げた。



「なんやいきなり笑って」
「いや、自分って頭悪いなあ、思いまして」
「何がわからんのや、見してみぃ」



何を勘違いしたのか、いや勉強中だから当たり前かもしれないが、勝呂は志摩が問題を解けなくてそう呟いたと解釈したらしい。志摩のノートは真っ白だ。およそ二時間を、志摩は真っ白なノートと睨めっこしながら勝呂と自分について考えていたことになる。二時間って。志摩自身でも少し呆れた。

いや、自分でなんとかやりますわ。志摩はそう答えてようやく教科書の字を脳に入れる。向かい側で勝呂が、そうか、と呟いて再び問題へ戻っていった。




坊、好きです。
好き、っちゅーか。
愛してます。

言えたら、きっと楽だ。オチがどうなろうとも、この重い心はいくらか軽くなる。溜めすぎるから苦しくなるのだ。知っている。知っているけれど、それでも現実は簡単ではない。
志摩は手を伸ばして勝呂の髪に触れる。とても近い距離にいたのだと今更ながら気づく。風呂上がり独特の少し湿った髪が心地好い。そのままさらりと耳から頬を撫でた。



「っわ、な、なにすんねん!」
「いやぁ、坊の髪は相変わらずやぁらかいですわ」
「何を意味わからんことを…」



ごまかすようにへらりと笑う。なんだかんだできっと自分はこのままが一番好きだ。わざわざ一等地を手放す必要はない。
坊、好きです。それだけ口にした。身を乗り出せば額にキスだってできた。勝呂は、顔を赤くして言葉が見つからずに口をぱくぱくさせる。かわええなあ。志摩は笑ったまま愛してると心の中で言った。






















20110604.
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