ブルアデ
「にゅ〜」
「ちょ、ちょっと、ブルーベル、ちゃん?」
「…なんなのよ」
なんなのよ、と言いたいのはこっちの方だ。見知らぬ女の子。多分小学生。幼稚園に通ってる…にしては発育がいい。中学生にしては幼い気がする。到底生れつきとは思えないブルーの髪にこっちは本物かもしれない同じくブルーの目。くりくりとして大きいから余計に幼く見せているような。
「ねえ、どうなってんのよ、これ」
「っ、やん!」
じっとりと恨みでもあるような目で見られる。ぎゅうと胸を鷲掴まれて驚いて、あと少し痛くて肩が跳ねる。わ、揺れた。なんて半分感動したように、ブルーベルちゃん、が呟く。出会ってすぐに自分で名乗ったのだ。ブルーベル。花の名前。日本人ではなさそうだ。
自分より一二年以上年下の人間とはあまり関わったことがなかった。だからどう接していいかわからない。好きにさせればいいのだろうか。
「ねえ、あんた名前は?」
「あんた、って…」
最近の若者は礼儀を知らないとよく言われる。私自身は自分で言うのもなんだけれど礼儀正しい方だと思っていた。なのに若者で括られるのは気に入らなかった。しかし、これは確かに。若者を嘆きたくなる気持ちもよくわかる。初対面の相手の胸を断りなしに揉んで、その上あんた呼ばわり。でも怒ったりしたら泣かれそうで怖い。道で小学生を泣かせる中学生。非常によろしくない図だ。
「ねえってば!名前!」
「鈴木…」
「鈴木?」
「アーデルハイト」
ふうん、アーデルハイトっていうの。お固い感じの名前ね。そう言いながら彼女は私の胸から手を離した。そしてそのまま自分の胸を揉む。服の生地だけがくしゃりと崩れた。不可解な行動ばかりする子だなあ、と思う。私はもうブルーベルちゃんを不思議な子と位置付けていた。ブルーベルちゃん、なんて呼ぶのも違和感あるくらいに、会って間もないのに、だ。
「なにしてるの?」
「巨乳がうつらないかなあ、って」
「うつるって…病気じゃないのよ」
「知ってるわよ」
ある程度やって満足したのか、ブルーベルちゃんは服をくしゃくしゃにするのを止めた。なんだか非現実的な子だ。幼いのに年齢がわかりにくいのは中身がませてるからなんだろうか。
「あんたこの辺に住んでんの?」
「ええ、まあ、一応」
「ふうん。また会いにくるから引っ越しちゃだめよ。絶対ね、わかった?」
あまりに勢いがよかったのでつい頷いてしまった。ブルーベルちゃんは嬉しそうに笑って、じゃあまたね、アーデルハイト!と言ってスカートを翻して走り去った。
帰宅後、炎真やジュリーにそれを話したところ、痴漢じゃねーの、と返された。それならば痴女だと思うけど。そう言うと盛大に溜め息を吐かれる。不思議な子だった。
夢のパラダイス
20110515.