ユニブル





















ブルーベルってとってもかわいそうね。私が愛してあげましょうか?

どこかの有名なブランドのティーカップを細くてしなやかで折れそうな指でつまみ上げて、紅茶を口にしながらユニは言った。ブルーベルは、いらない、とだけ答えた。ブルーベルに必要なのはユニなんかの同情と自己犠牲とそこに付随する自己満足ではなく、例えばお兄ちゃんの、無償の愛と優しさと大きなちょっとごつごつした手だ。
あの手に頭を撫でられて、髪を梳かれるだけでブルーベルの世界は輝いて見えた。ブルーベルの髪はシルクのように綺麗だね、とお兄ちゃんが笑うから、ブルーベルはずっとずっと髪を伸ばし続けたのだ。泳ぎが好きなのもお兄ちゃんの影響だった。今のブルーベルを構成するたったの1ミリにさえ、ユニはいない。だから今更ユニからの気色悪い愛なんていらなかった。
くそくらえ、という感じだった。



「あら残念。私は別に見返りを要求したりなんてしませんよ?」
「ちゃんと要求する方がマシだわ。あんたこっちの了承も得ないで勝手に持ってくじゃない。押し売りもいいところよ」



ブルーベル、一緒にお買い物に行きませんか?ブルーベル、ピクニックなんてどうですか?ブルーベル、乗馬をしましょう?ブルーベル、ブルーベル、ブルーベル。
ユニは疑問形で持ち掛けてはもうそれは決定事項のように話を進めて、なになにしてあげたから、とか言って勝手にそれに釣り合うだけの何かを持っていく。天秤の中心はユニだから、ブルーベルの意見なんて微塵も聞き入れられない。
第一自分から持ち掛けてきたくせに「してあげた」とは少々おこがましいと思わないのかしら。ユニはファミリー内で蝶よ花よと可愛がられて姫とかいって育てられたらしいから仕方ないのかもしれないけど。でもそれって、我が儘だ。一緒に買い物に行ってあげた?そう言いたいのはこっちの方よ。



「でもね、ブルーベル。世の中ギブアンドテイクなんですよ」
「見返りはいらないって言ったの、誰よ」
「いらないなんて言ってません。要求しないだけです」



そう。ブルーベルが「お礼に受けとってください」って言うなら何も問題ないんです。

本当に、気持ち悪い思考回路をした生き物だ。にこにこと、そこに何か間違いがあるなんてちっとも思わないで、自分の正当性を述べる。
よかったわね、あんたこんなに図太く生きられるように育ててもらえて。ブルーベルがそう言ってもユニは「ええ。私は幸せ者です」と口角を上げるだけだった。
私は、幸せ者です。
言葉の外に、でもあなたは不幸ね、というフレーズが滲み出ている。かわいそうね。愛してあげましょうか。最初の台詞がふっと頭の中を走る。
失礼ね。ブルーベルは、かわいそうなんかじゃないわ。あんたなんかに愛してもらわなくたって、十分愛されてるのよ。そうやって言い返してやりたかった。ざまあみろと舌を出して馬鹿にしてやりたかった。あんたの偽善なんか必要ないんだって笑ってやりたかった。そうしてやりたかった。



「ユニ、言っとくけど、ブルーベルはあんたのこと大嫌いだから」
「ええ。知ってます」



だから?と首を傾げるユニのティーカップを叩き割りたい。温くなった紅茶で火傷してしまえばいいんだ。一生消えない傷を背負って「かわいそうね」って言われながら生きればいいんだ。「愛してあげましょうか」って。優しいフリした嫌な人間に声をかけられる度に惨めな気持ちになるこの心をそっくりそのままあんたに感染させてやりたいわ。
そう思ってたらふつふつと怒りが沸き上がってきて零れそうになって、ブルーベルの腕は衝動のままにユニに掴みかかった。











「あらあら、ブルーベルったら。かわいそうね」




ベッドから盛大に落ちてしまったブルーベルをユニが座ったまま見下ろしていた。紅茶を優雅に飲みながら微笑んでいた。悔しくて悔しくて、いくら叩いてもブルーベルの足は相変わらずぴくりともしなかった。
ああ、あいつの頬をひっぱたきたいだけなのよ。





















20110912.
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