正綱




















なんとなくソファーに並んでなんとなくテレビを見る。それが僕らの週末だった。特に興味があるわけでも面白いわけでもないお笑い番組を見て、はは、くだらねーと彼は言う。僕はと言えば、編集やサクラの働きで入っている笑い声を聞くだけで笑ってしまっていた。音声の力は偉大なり。彼には通用しないようだが。


「もうテレビ飽きた…なんかないの」
「チャンネル変える?」
「んー、そういうんじゃなくってさ…」


あ、そうだ!頭の上に豆電球が浮かんだような顔をして(古いかな)綱吉君が「クイズをしよう」と言った。クイズ?うん、クイズ。何か面白いネタでもあるんだろうか。綱吉君はそれはもうウキウキしていて、さっきまでのつまらなさそうにしていたのと180度弱反対向きに見えた。まあ、クイズとか脳トレなんかは嫌いじゃないし、いいかな。そう思って綱吉君に出題を促した。


「じゃあいくよ。人の手の指は何本でしょう」
「え、五本…?」
「正解」
「ちょっと綱吉君。これクイズでもなんでも、」
「じゃあ」


引っかけ問題なわけでもなく単純な、多分誰もが答えられる質問(クイズとは言わない)に反論しようとした所を遮られた。綱吉君は握りこぶしを突き出して、僕の目の前で開いた。一瞬殴られるのかと思ってぎゅうと目を閉じたのが情けない。


「じゃあ、俺の手の指は、何本でしょう」
「そんなの五本に決まって……え、あ、」


あ、あ、と言葉にならない声が口から漏れる。言いたいことはあるのだ。ある、けど、口が動かない。よーく見て答えてね。綱吉君は相変わらず楽しそうに笑う。テレビではちっとも笑わなかったくせに。この顔がつまらなさそうな顔になるのが怖かった。そうなったら次はどんな彼にとっての「楽しいこと」を提案してくるかわかったものじゃない。開いた状態で引き攣ったそれを叱咤して僕は、よんほん、と答えた。死にそうな声だった。


「正解!さすが正一君だね!」
「つな、よ…し、くん………それ…」
「そんなクイズ王の正一君には俺から優勝商品を贈ります!」


そんなのどうでもいい。どうでもいいから何がどうなってるのか説明してくれ。どうして中指がないんだい。綺麗さっぱり、木でいうところの切り株も残さないで、最初からそこがぽっかり空白だったみたいに、なかったことになってるんだ。


「昨日頼んだからもう来るはずなんだけど…」
「な、にが」
「俺の」


な、か、ゆ、び。一つずく区切って犬に言い聞かせるようにして綱吉君が言った中身に僕はもう泣きそうだった。ああ、やっぱり無いのは中指なんだ。ピーンポーン。軽やかな電子音に僕の貧弱な精神はとうとう負けてしまった。それから後の記憶はない。























非常口たんへ
20110226.
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