たいせつなもの



『…テツヤ、ドリンク』

「他の人から貰うのでいらないです」

『…ふん、あっそ、好きにすれば?』

「はい、好きにします」




テツヤと昨日喧嘩した。
私のこのツンデレの性格もあって、女の子らしく可愛い言葉も仕草もできない。
そんな私をテツヤは昔から好きでいてくれた。とても嬉しいのは確かです、ただ、恥ずかしくて素直になれない事がほぼ毎日。愛の言葉もめったに言ったことがないです。
それでも好きでいてくれるテツヤに甘えてばっかりだったのがいけなかったのかもしれない

昨日に遡る…



両親が外出中の為、テツヤのお家に泊めてもらっていた。テツヤの両親も帰りが遅くなるって言ってたから何か手伝える事はないかなと、キッチンに来たら洗い物がたまっていたので食器を洗うことにした。

そこでうっかりテツヤの愛用マグカップを落として割ってしまった。




『うわっ!!』

「どうしたんですか?」

『…あ、テツヤ』

「今すごい音しましたけど…」

『その、これは…』




テツヤが現れ、私の足元に目線を落とす。
それからしゃがんでガラスの破片を拾って行く




「…派手にしましたね」

『ご、ごめん…』

「…大丈夫です」

『ご、ごめんね!これと似たようなのそこら辺にいっぱい売ってるし、明日買ってくるよ!』




そう言うと、ガラスを拾うテツヤの手が一瞬止まった。




「…似たようなのじゃ、嫌です」

『で、でも、割れちゃったし…!』

「これは、世界に一つしかないものなので、代わりなんてありません」

『じゃあどうしろって…!』

「別にいりません」




静かに怒っていながらも、私の手に怪我が無いか確認し終えるとまっすぐ私の目を見た。




「代わりなんてないんです」

『……』

「ここは、僕がやるのでいいです」

『か、形あるものは、いつか壊れるんだから!』

「…そうですね」

『そんな怒らないでよ!』

「…怒ってません、名前の発言に呆れているんです」




冒頭に戻るわけです…
私はどうすればいいの!同じの買えばいいの!?どうしたら仲直りできるのかな…?
今まで喧嘩したことなかったし…




「はい!テツくん!」

「ありがとうございます、桃井さん」

『デレデレしちゃって、だらしない顔』

「名前よりはマシです」




そこまで怒るものなの?とても大切なマグカップだったのかな…?
確かにいつもあのマグカップ使ってたよね?
同じやつ探しに行こうかな…




「同じもの買ってこないでくださいね。僕はそんなの望んでませんから」

『…っ、じゃあどうすればいいのよ!』

「…さぁ、1人で考えてみたらどうですか?」




こんの…!悪魔めっ!!!










***



「テツくぅ〜ん!ドリンクどうぞ!」

「桃井さんっ…ありがとう、ございますっ…ふぅ」

「お疲れだね、テツくん」

「今日は少し、疲れました…」




その笑顔は、私だけのものなのに…
考えろって言われても、何も思い浮かばないのに、どーしろと??




「どうしたんすか?黒子っちと喧嘩したんすか??」

『…まぁ』

「ありゃりゃ、珍しいっすねー!」

『うん、本当にね』




やっぱ同じの買ってこよう!赤司くんに言って早く上がらせてもらおう。

許可を貰った私は、学校を出て雑貨屋を訪ねて同じものがないか歩き回った。




『…あ、あった!』




これだ…!やっと見つけた!!
早く帰ってテツヤと仲直りしよう!
買ったマグカップの箱をワクワクした気持ちで眺めながら、家まで歩いた。




『ただいまー』




返事はない、ただの屍のようだ。
2階にいるのかな?ノックしてみよう




『テツヤー?いるー?』

「…なんですか?」

『よかったいた!これね!まったく同じの買ってきたの!』




勉強しているのか、私に背を向けている。
こっちを向いてくれる気配はない




「いらないですって言いましたよね?」

『…で、でもさ!愛用マグカップ割っちゃったのは私だしさ!…また新しいの使えばいいじゃん!』

「っ!そんな物僕はいらないです!!」

『っ!?』




珍しく怒鳴ったテツヤ。
静かで、気まずい空気に嫌気がさす。




『…なんで、そんな怒るの?』

「それ持って部屋から出てってください」

『私は、ただテツヤと仲直りしたくて…!』

「名前の顔、見たくないです」

『っ!…こんなものっっ!!!』




テツヤと仲直りする為に買った物を、勢いよく床に叩きつけた。可愛くラッピングされた箱の中ですごい音がした。
部屋を出る前、その音に驚いたテツヤが勢いよく振り向いたのを見た


テツヤ、君は何をしてほしいんだか全然わからん!!










***



真っ暗な空の下を行く当てもなくトボトボ歩く。夜は昼間よりだいぶ寒い




『どうしよ、その場の勢いでまたマグカップ割っちゃった…』




深いため息がでる。
あんなに怒るなんて…なんかデリカシーない事でも言ったのかな??
そんなにあのマグカップに思い出があるんだ…。


あれ?私、やっぱデリカシーない事言ってるんじゃない??
『新しいの使えばいいじゃん』とか言ったよね?『いつか壊れる』とも言ったよね…?




『無意識って怖っ…』




自分が悪かったのはわかった。ただ、なかなか帰りにくい…
あんなに怒ってたら帰りにくいよ、今だけ自分の家に帰ろうかな…




『ただいまー…』




いつもなら、ここで「おかえりなさい」って言ってくれるのになー…
テツヤ、こんなのが毎日続くのかなって思うと寂しいよ…
しばらく玄関で立ちすくんでいた。




『…はぁ、同じマグカップ探すとか女の子みたいでキモすぎっ、自分…』

「…そうですか?僕はキモいなんて思った事は1度もないですよ」

『っ!?』




背後にはいつの間にかテツヤの姿が。扉開いた気配なかったけど!?




「それより、どうするんですか、これ」

『…ゴミ箱に捨てなよ』




テツヤが手に持ってるのは、さっき床に叩きつけた物。なんで持ってくるのよ




「…すみません」

『え?』

「名前の言葉についカッとなって…。大人げないですよね、本当」

『…私も、デリカシーなくてごめん』

「ただ、とても悲しくて。…初めて名前に貰ったものだったので」

『…え、いつ!?』

「…覚えてないんですか?」

『…ごめん』




どうやらあのマグカップは小学生高学年の頃、私がお金を貯めて買った物らしい。それをテツヤの誕生日にあげたとのこと。
ど、どうしよう記憶が曖昧だ…




「それ以来使っていたもので…」

『そっか、ごめん…』

「僕の方こそ、せっかく買ってくれたのに割らせてしまいました…」




涙が出そうなくらい悲しい顔をしているテツヤ。
さっきまで敵意むき出しで威勢よかったのに、何この切り替わり…




『…またマグカップ買う?…ペアのでいいなら』

「…え?」

『ペアのマグカップ…、いらない?』

「い、いります!!」

『じゃあ明日一緒に買おうね』

「はい」




テツヤの笑顔可愛い!仲直りできて良かった!









20150214

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