ずるい先輩



『…あれ?桃井ちゃーん?』




しまったと思った。
めでたく新年を迎えて、朝早くから桐皇バスケ部メンバーと神社へお参りをしに来ていた。
寒いなか長い行列にみんなで並んで、30分後に賽銭箱の前に着いてやっとお参りができた…のだけど、そのあとに事件は起きた。


みんなが賽銭箱の前から移動しようとした時、私とみんなの間に多くの人が通り、私は一時立ち止まったんだけど、それがダメだったみたいで、人が通り終わるとみんなの姿がそこにはなかった…




『やばい…、携帯携帯…!』




ポケットを探るが、ない。あれだ、きっと鞄に入っているに違いない。
…ほら!あった!!




『みんな気づいてくれてるかなー?』




携帯の画面を見るとすでに5件の着信があった。
気がついてくれたみたい!よかった………?




『え?…全部の着信が今吉先輩なんだけど…』




とりあえず、今吉先輩の携帯に電話をかける。
すると1コールで出てくれた




≪苗字か!今どこにおんねん!!≫

『えっと、おみくじ屋さんの前です…』

≪そこから絶対動くなよ?今ワシが迎えに行くわ≫

『…はい』




ブチッと電話を切られた。
今吉先輩が迎えに来てくれるんだ…。珍しい事もあるんだな。あれ?もしかして怒ってたりする?
あぁ、怒られたらどうしよう




『………』

「おー、おったおった」

『今吉先輩すみません!』

「お前危なっかしいわ…。まぁ、見つかったからええけどなー」

『ごめんなさい…』

「ワシなんもそこまで怒ってへん。皆心配して待っとるで?早よ行こか」

『…はい』




迎えに来てくれた今吉先輩は、私の前を歩いて人混みをかき分けてくれている。
今吉先輩って腹黒いらしいけど、優しいな…




『あ、』




つい考え事をして気を抜いていると、私と今吉先輩の間に人が通る。
またはぐれたらどうしよう…




『い、今吉先輩…!』

「名前!もう、ホンマ気ぃつけて…」

『は、はい…』

「ほれ、手でも掴んどき」

『し、失礼します…』




…あれ?
なんかいつも「苗字」って呼ぶのに今「名前」って呼ばれた気がする…。

私ははぐれないように、今吉先輩の手を握った。




「ちょい恥ずいなぁ…」

『え?』

「…名前、危なっかしい」

『じ、自覚してます…』

「せやから…、ワシが見える所に置いておきたいねん」

『へ?』

「今吉さーん!こっちですよー!!」




遠くの方で、私達を呼ぶ桜井くん声が聞こえた。
今吉先輩はその声に気がつくと、今まで握っていた手を離された。
今まで握ってたから、離された時少し寂しかったな…




「また後で話し合おうや」

『!?』




今吉先輩が私の耳元でそう言えば、みんなのもとへと戻っていった。




『い、今吉先輩…』

「苗字見つけたでー」

「名前ちゃん心配したんだよー!!」

『桃井ちゃんごめんね…!』

「名前はちっせーから見えなかったわ」

『あ、青峰くん酷いっ!!』

「あ、青峰さん!名前さんをいじめないでください!」




今吉先輩は私達の会話に入る事はなく、少し離れている若松先輩と諏佐先輩の2人と話を始めた。

呼び方、苗字に戻ってた…




「名前、腹黒眼鏡になんかされたか?」

『え?なんで…?』

「いや、珍しくあの眼鏡が迎えに行くって言ってたから」

『そっか、…でも優しかったよ?』




今吉先輩は優しかった。
けど、みんなが集まってる時は目すら合わしてくれなかった…。











***



「名前」

『………』

「…どないした?」




みんなと別れて家の方向が同じ今吉先輩と一緒に帰る事になった。
私は2人きりになってからずっと俯いて歩いている。今吉先輩の呼び掛けにも返事はしなかった。




「そろそろ返事が聞きたいねんけど」

『…なんの、ですか?』

「なんのって、昼間に言うたやないか。見える所に置いておきたいって…」

『それってどういう…?』

「さぁな、ちょっとぐらい自分で考えてみい」




今吉先輩はずるい…。
2人きりの時は優しくて、みんながいると冷たくなるくせに。みんなと合流した後、先輩が1度も目を合わせたり話しかけてくれなくてその度に私の心がチクリと痛むんです…




『…今吉先輩のバカ』

「ん?」

『私、あれからずっと心が痛いんです!』

「………」

『みんなの前では冷たいくせに…、2人の時に優しくしないでください!!!』

「…それが作戦やもん」

『は?』




先輩に対して失礼な返事だなとは思ってます…




「みんなの所に戻ってからワシが冷たくなった?そりゃそやろ、名前には頭ん中でワシの事でいっぱいにさせたいんやから」

『え?』

「要するに、名前が好きっちゅー事や」

『い、今吉先輩…!?』

「腹黒眼鏡とか言われとるけど、名前はこんなワシでもえぇ?」




今吉先輩が真剣な顔で告白してくれてる…。




『…私は、今吉先輩ともっと手を繋ぎたいです』

「しよか」

『隣で歩きたいです…』

「それもしよか」

『…っ、今吉先輩、好きです!!』

「ワシもや」




今吉先輩が私を抱き締めてきた。彼の腕の中は、手の温もりとは違った心地のよい温もりだった。





ずるい先輩
(今吉先輩…
(わざわざワシのクラスまで来てどないしたー?
(…一緒に帰りませんか?
(えぇよ
(あ、あの、手も…繋ぎたいです…
(…なぁ名前、お前なんで可愛い事言うんか?正直、俺心臓もたへんわ…
(え?
(…しゃーないなぁ。ホンマいじめたくなるで?



20140102

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