冷たい彼




『征十郎』

「あっちへ行け」

『征十郎!』

「近寄るな」




どうして、私だけ傍に行ってはいけないんだろう。
他の女子は良くて私はダメなの?
ずっと征十郎の傍にいたのは私なのに?小さい頃からずっと…。


なんで今更…?




「赤司様?構わなくてもいいでしょう、そんな子」

「…あぁ」

『あっ…』




私に背を向けて、去っていく愛おしい征十郎。
彼の傍にいる女子は、征十郎の腕に巻き付いていた。

正直辛い、好きな人があんなに冷たくなってしまった。小さい頃の征十郎はどこに行ってしまったんだろう




『……』

「苗字さん?」

『あ、黒子くん!』

「…大丈夫ですか?」

『え?…ううん、大丈夫じゃないよ』

「……」




後ろから名前を呼ばれて、振り返ると黒子くんが立っていた。
どうやら今のやり取りを見ていたらしい。
黒子くんが私を心配してくれている




「わかりました」

『?』

「僕とお付き合いしましょう」

『へ?』

「これは絶対です。苗字さんに拒否権はありませんから」

『えぇー!!』




黒子くんと付き合う事になりました









***



『あ、征十郎…』

「今すぐに僕の前から消えろ」




1人でいる征十郎と廊下で鉢合わせしてしまった。
昔はあんなに優しい目をしていた征十郎が今は冷たく鋭い目で私を見下している




『……』

「あ、苗字さん…。探したんですよ?一緒に帰りましょう」

「テツヤ…?」

『うん…』




なんで征十郎はこんなにも変わってしまったの?
私が何かしたんですか?ならなんで直接言ってくれないの…?
怒ってくれればいいのに…




「テツヤ、これはどういう事だ」

「…僕と苗字さんは恋人なんです」

「…ほう」




征十郎は黒子くんの言葉を聞くと、さっきよりも冷たい目で私を睨んだ。




『…私、もう征十郎に話かけたりしません』

「……」

「では、行きましょうか」

『うん』

「名前」




久々に征十郎から名前を呼ばれた気がする。
反射的に振り返ってしまった。




『征十郎…?』

「僕達は、昔に約束したはずだぞ。僕から離れたら殺す≠ニ…」

「!?」

『征、十郎…?』




征十郎から何かオーラを感じた…。
とても冷たく、怖い。

黒子くんも感じてるはずなのに、私の前に立った




『く、黒子くん!?』

「赤司くん」

「…なんだ」

「そろそろ苗字さんを傷つけるのはやめたらどうですか?」




普段優しい顔をしている黒子くんが、征十郎に向かってしかめっ面をしていた。




「傷つける、だと?」

「はい。どうして赤司くんは苗字さんに冷たいんですか?」

「…別に普通だ」

「そうですか。じゃあ苗字さんが嫌いなんですね。だったら苗字さんは僕がもらいます」

『黒子くん…』




黒子くんってこんなに男らしい人だったのか…。
いつもおとなしいから全然知らなかった…




「名前、テツヤを選べばどうなるか知っているだろう?」

『え?』

「僕達は、昔約束した仲だ。テツヤを選べば名前を殺す」

『い、意味がわかんない…』

「何…?」

『そんな事言ってさ、だったらなんで私を避けたり暴言はいたりするの?私だって耐えられなくなるよ』




生まれて初めて征十郎に反抗したかも…。
でも、もういいの。征十郎に殺されようが何されようが…。
征十郎が私に冷たい世界なんていたくない




『私だって女の子なの。恋愛だってしたいし、優しくされたいし、心が温かくなりたい…』

「そうか」

「どうですか?僕から苗字さんを奪います?」

「いや、もういい」

「『え?』」




征十郎はなぜか呆れたような態度をとっていた。
あそこまで言ったら優しくしてくれるなかって思ってたのに…




「なぜ、です…?」

「やはり僕は名前が嫌いだ。もう話をかけてくるな。一言でも話をかけてみろ…殺すぞ」

『―っ!』




その場に耐えられなくなって、逃げた。
もう話をかけちゃいけない事になるなんて…。でも、話かけてもあんなに冷たかったら嫌だ。


私も征十郎なんて嫌いだ!









***



『おはよー!むっくんに涼太ー』

「はよー」

「おはよっス!」




翌朝学校に行こうか迷ったけど、そんな事で休むのは嫌だったから結局行くことにした。




「敦、少しバスケの事で話をしたいんだが…」




教室の出入口から聞き慣れた声が…。
キャプテンだから仕方ないんだけど…




「なにー?赤ちんおいで」




ダメだ、もう耐えられないっ!
私は征十郎の前からまた走って逃げた。家には帰れないので、女子トイレの個室に逃げ込んだ




『ふぇっ、……くっ!』




征十郎が私に冷たい世界なんていたくない≠チて思ってたけど…、私はただ征十郎が昔のように優しい人になってほしかっただけ…。
なんで冷たくなってしまった…?私が全部悪いの?私のせいなの?







――――ギィィイ…



誰か入ってきたみたい。
ちょっと泣くのやめよう


トイレに入ってくると、足音は私の扉の前で止まり、コンコンと叩いてきた




『…え?』




女子は空いてる個室には入らず、私が使っている個室の扉をノックした。
なんで?他の個室行けばいいのに




「僕だ」

『…!?』




この、聞き覚えのある声って…




『せ、征十郎…?』

「あぁ。だから鍵を開けてくれ」

『い、やだ…』

「鍵を開けろ」




なんで、なんで征十郎がいるの!?私殺されたくないよ!
自然と手が震えてしまう。震えた手で鍵を開ける




「いい子だ」




扉を開けると優しい顔をした征十郎が立っていた。
私を殺しに来たの?一言も話かけてないのに?あ、でも離れて行ったからかな…?
私を殺しに来たからそんなに優しい目をしてるの?
最後くらい、みたいな…?




「名前…」

『っ、待って征十郎!こ、殺さないで…!!私、まだ死にたくない!!!やだよっ!!』

「何を言って…」

『私がいけないのっ!!全部私が悪いの…!!でも…、殺さないで!?征十郎の前から、消える!!!で、でも、どうしても私を殺したいなら私が自分で…!征十郎に殺されるくらいなら、自分の手で死にた……!』




征十郎は私を強く抱き締めていた。
やっぱり殺されちゃうんだ、こんなに優しくなるなんて…




『ごめ、なさい…』

「震えるなっ!」

『!』

「何故優しくしただけで、こんなに震えるんだ…」

『せい、じゅうろ…う?』

「…すまなかった。全部僕が悪いんだ。名前をこんな風にしてしまった」

『…やっぱり殺すの?私を殺すから最後くらい優しくしてくれるの…?』

「違うっ!!!」




さらに腕の力が強くなる




『…そっか』

「あんなのは言葉のアヤだ!!本気にするな!」

『…うん』




言葉のアヤ…
一体どこから本気でどこまでが嘘なのか全然わからないよ…




「名前…」

『なんで、急に優しくしたりするの…?』

「さっき僕をおもいっきり避けただろう?」

『…うん』

「傷ついたからだ。僕に毎日暴言をはかされ避けられていた名前の気持ちに気づいてね…。名前が好きで今までどう接すればいいのかわからなかった」

『……』




それまで傷ついてないだろうと思ってたの?
それに好きって言ってたよ今…




「本当にすまない…」

『せ、征十郎…!!』




私は征十郎の背中に腕を回し、顔を彼の胸板に押しつけて泣いた。
落ち着くまで征十郎は私を子供のように頭を撫でたり、背中をポンポンと優しく叩いてくれてた




「テツヤに言われた…苗字さんを傷つけたら僕が許しません≠チて」

『征十郎』

「なんだい?」

『征十郎!』

「好きだ、愛してる」

『わ、たしも…!!』





冷たい彼
(名前ちんと赤ちん帰って来ないねー
(授業始まるんスけど…
(赤ちんがあんなに必死に走って行ったの初めてみたかもー
(俺もっス…



20130807

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