人魚の王子様



「俺、人間になるよ」




ここは海の奥深くにある人魚が住む街。
俺はそこでもお金持ちで有名な神宮寺の三男、レンだ。俺はこの家に必要ない、ならば人間になって地面に二本足で歩いて自由に暮らしたい。

俺をこんな思いにさせたのは、前に海辺で出会った女性のせいだ。
彼女はどこかのお姫様だったらしく、偶然に近くでパーティーがあり一休みも兼ねて海辺で歌を歌っていたらしい。
近くにいた俺はその歌に惹かれて、近づいた




「…君、凄いね」

『え、貴方…そんな所で何を…?』

「あ、俺?…えっと、泳ぎたくなって泳いでたのさ」




尾びれを見られてなくて良かった…
まぁ、ヘソの上辺りに海水があったから、見られる心配はなかったのだけど




「綺麗な声だね」

『あら、貴方の声も素敵じゃない』

「ありがとう、俺は神宮寺レンだ」

『私は苗字名前よ』




なんて名前も綺麗なんだ…
俺はこの人と一緒にいたい、ずっと一緒に…




「何があったんだ?」

「…理由なんていいだろ?いいから人間にさせてくれよ」

「…わかった、早乙女さんに頼んでくる」




やっと、人間になれるのか…
名前はあそこにまだいるのだろうか。早く会いたい、いつもレディを平等に愛してる俺が柄にもなくそう思った










***



「……っ、」




ここは…?
てかあの後どうしたんだっけ?…ボスになんか変な薬貰って…
そこから記憶がないな…




「……」

『あ、レン起きたのね!良かった!』

「っ!?」




うつ伏せから仰向けに寝返りをしたら、ドアップに名前の顔。
驚いた…




『は、裸で倒れてるんですもん…』

「!?」

『よ、洋服持ってきたから、とにかく着て!』




ずいっと洋服を押し付けられた。
ふーん、これが洋服っていうのか…まるで王子様みたいな格好だな…




「…ぁ、…っ!?」

『ど、どうしたの?』




お礼が言いたいのに、声が出ない…
な、なんでだ…!?
取り敢えず、砂場に文字を書く




『あ り が と う。…レン、話せないの?』

「“そうみたい”」

『そうみたいって…?どうしてかわからないの?』




コクリと首を縦に振る。
彼女は目を見開くと、次は悲しい表情をした。表情がコロコロ変わる人だな…




『…とりあえず、服着よう?』

「っ!?!?」










***



『私の部屋でいいのなら泊めるけど…』

「“いいのかい?”」

『…レンなら全然構わないよ』

「っ、」




なんだ、名前の発言にいちいち照れる自分がいる…。前の俺じゃこんな事なかった。
人間って素晴らしい…!




『ここが私の部屋よ』

「“…俺と大体一緒だ”」

『へぇ、レンの家も?』




ちなみに、スケッチブックに文字を書いていたりする。くそっ、話せる方が楽なのに…!




「“なんだか、廊下が騒がしいね”」

『…近々結婚式だから、』

「“身内の人?”」

『ううん、…私』

「!?」




な、うそ、だろ…!?
俺が人間になったとたん名前が結婚!?ちょ、ちょっと待ってくれよ!




「“…名前は、嬉しいかい?”」

『…まったく!知らない人との結婚だなんてごめんだわ!!』

「“そうか、なら良かった”」

『…どうして?』

「“…それは、声が出た時に言ってもOK?”」

『…いいよ!』




まさか結婚だなんて…
いや、必ず名前を俺のものにしてみせる!
そう誓って人間になったんだ、いとも簡単に諦めてやるものか!




「名前、失礼する」

『え!?』

「…っ、」

「…なんだ、その男は」

『あ、貴方は、誰…?』

「俺は、君の結婚相手の聖川真斗だ」




顔も知らない婚約者が現れたか、なんとも頑固そうな奴だ




『…聖川さん、私は貴方と結婚するつもりはないのです』

「なっ、…その男のせいなのか?」

『いいえ!レンは関係ありません!ただ顔も知らない人となんて結婚出来ないだけです』

「ならば、これから知っていけばいい話だ」

「“残念、名前は俺のだから”」




名前に見られないよう、スケッチブックを聖川に向けると、鋭い目つきで睨んできた




「…とにかく、もう決まった事なのだ」

『嫌よ!絶対に嫌!!』

「ふん、何度でも言ってるがよい」




そう言って聖川は部屋を出て行った。
彼女の横顔を見ると、怒っているが、目に涙を溜めていた。
プルプル震えている




「……」

『…いっつもそう、家族誰一人、私の気持ちなんか見てくれない!!いっつも勝手に決めて…!反抗できない自分が悔しいぃ…!!』

「“…なら、俺と一緒にくるかい?”」

『…うん、レンと一緒にいたい』




俺は彼女の手を取って城から抜け出した。

でも、そんな事を言ったものの、何をしていいか全くわからない。
人間になったばかりだし…




『…ねぇ!海!海に行きましょう!』




海なんて素敵なリクエストだね、応えないわけにはいかないか
あの日初めて名前とあった浜辺へと来た。




『…レンの声、聞きたいな』

「“俺も、スケッチブックより話す方が楽だよ”」

『ふふふ、それもそうね』




静かな時間が過ぎる。
この過ごし方もアリだなって考えていると、ふと手に違和感を感じた。顔を向けると彼女が指を絡めていた。




『…こんなに好きになるなんて、思ってなかった』

「……」

『私、レンと一緒に生きて行きたい』

「…っ、」

『…責任、取ってよね!』




と、顔を赤らめる名前に触れるだけのキスをした。
とても可愛かったんだから仕方がないさ




「…俺もこんなに好きになるなんて思ってなかったさ、愛してるよ名前。ずっと一緒に生きて行こう」

『…レ、レン!?』

「ん?…あれ?声出てる?」

『うん!久しぶりに聞いた!!やっぱり素敵ね!』

「それは君もだよ」




夕日に照らされながら、キスをした








20150413

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