どっちも大切



『……』

「名前?」

『うわぁ!マサ!?』

「…こんな所で何をしている」

『レンくん見てるの』

「神宮寺を?」




俺は中庭の木の影に隠れて、コソコソしている名前を見つけた。


近寄り声をかけると、彼女は神宮寺を見ているらしい。彼女の目線をたどってみると、大勢の女性と騒いでいる神宮寺を発見した




「…趣味悪いぞ」

『うるさいなぁ、わかってますよーだ』




俺の方を向いて、まるで子どもの様に舌をだす名前




「…こう言うのは悪いと思っているが、神宮寺はやめておいた方がいい」

『マサ…』

「名前が傷ついてる姿など俺は見たくない」

『……』




俺と名前が真面目な話をしていると、遠くの方から俺達を呼ぶ声が聞こえた




「名前、と聖川」

『!?』




神宮寺は俺の顔を見るなり、顔を歪めた。
まったく、腹立たしいものだな




「神宮寺、ここは学校だ。少し行動を慎め」

『マサ…』

「そんな事知ってるさ。まったく、うるさい奴だ。行くよレディ達」

「「「はーい!」」」




神宮寺は女性をたくさんつれて俺達の前から去って行った。
神宮寺の背中が見えなくなるまで、名前はずっと奴の背中を見つめていた




『……』

「俺達も行くぞ名前」




言ったそばから悲しい顔をしているではないか…。俺なら、そのような顔は絶対にさせないのだがな…

俺は我慢できず、名前の手を掴みなるべく人気のない所へと向かった




「……」




その時、神宮寺が遠くの方から俺達の背中を見ていた事は誰も知らない…









***



−名前side−



『ねぇ、マサっ!速いよー!』

「あ、すまない…」




私の腕を掴んで無言で歩くマサ。
歩くスピードが速くてマサを呼ぶと、パッと手を離してくれた




『急にどうしたの?』

「名前は、悲しい顔をしている…」

『え…?』

「名前、なぜ神宮寺なんだ?なぜ俺じゃない…!俺だったら悲しませるような事はしない!!」

『マ、サ…?』




私を強く優しく抱き締めるマサ。突然の出来事に体が固まってしまった




『……』

「…名前は俺と同じだ。苗字財閥の跡取りで厳しく育てられた。…俺とお前は、環境が似ている。そしてすぐに仲良くなった。…俺は、いつの間にか名前に恋心が生まれていた。なのになぜ神宮寺なんだ…」

『マサ…』




マサはすごく優しいのを知っている。レディファーストだからなのかもしれないが、私には特に優しくしてくれた




『私、知らないうちにマサを傷つけてたんだね…』

「……」

『ごめんねマサ。優しくしてくれたのに…』




いつも私に優しくしてくれたマサをいつの間にか傷つけていたのかと思うと、胸が痛くなって涙があふれ出てきた




「…泣くな。お前が泣いているところなど、俺は見たくない」

『うん…』




やっぱり、レンくんを好きでいるのはやめた方がいいのかもしれない…。
私はマサを好きになれるように頑張った方がいいのかな…?


彼に抱き締められたまま考えていると、誰かがこちらに向かって走ってくるような足音が聞こえた




「…っ、聖川!!彼女から離れろっ…!」




そこには、レンくんが肩を上下に揺らし息を荒くさせながらマサに怒鳴っている姿があった




「…神宮寺」

「名前を離せ聖川」

『レンくん…』

「なんだ神宮寺。女子達はどうした?」

「帰ってもらったよ。ムッツリ真斗は名前に何をするかわからないしね…」

「何を言っている。お前がムッツリなのだろう」

『……』

「とにかく…」




私達に近づいてきたレンくんは、私からマサの腕を払い、私の手を取ってマサの方を向いた。




「聖川、名前は俺が貰っていくからな」

『わわっ』




そう言ったレンくんは、私の手を引いて歩き始めた。
話をかけたかったけどそんな雰囲気じゃなくて無理だった。




「はぁ…」




マサは、ため息をつきながら近くにあったベンチに腰を掛けた










***



マサから離れ、2人になった私達は人気のない中庭にあるベンチに座っていた




「名前、聖川と何を話ていたんだい?」

『こ、告白です…』

「ふーん…」




私の回答にレンくんの返事は、どこか冷たかった。
正直ここにいるのは気まずい




『……』

「返事はしたの?」

『ううん』

「…君は迷っているのかな?」

『え?』

「何に迷っているかは知らないけどね」




迷ってる…か。
レンくんの言う通り、確かに正直言って迷ってる。マサは親友として大好きだし、レンくんは恋愛として大好き…。
けど、レンくんを選ぶと私を恋愛対象として見てくれているマサが悲しむから…。
できれば、親友の悲しい顔なんで私も見たくない…。




『…迷ってる』

「え?」

『告白を断ったらマサを傷つける。でも恋愛の好きって気持ちは、マサじゃない別の人にあるから…』

「聖川じゃない…?」

『どうしたらいいんだろう…。わかんないよ…』

「別の人って誰の事?」

『言わないと、ダメ?』

「ダーメ。」




このタイミングで私はレンくんに告白をしなきゃいけないのか…。
一呼吸してから、言葉を放した




『…私が好きなのは、レンくんだよ』

「!?」

『私は、どっちも大切だから迷うの…』




私が迷っている理由を話すと、レンくんが俯いた。
告白されたの、気持ち悪かったのかな…?




「…悪かった」

『え?』

「さっきのレディ達は、名前が妬いてくれないかな?と思ってやったんだ。君の反応がいつも可愛くてね…」

『レンくん…』




やっと私を見たレンくんの顔は、さっきと違ってどこか優しかった。




「君の想いを知った今、俺は名前を聖川に渡す気は全くないよ」

『でも、マサが…』

「ヤツには別の人を好きになってもらうさ」

『大丈夫かな…』

「大丈夫、大丈夫」

『…わかった!でも、マサを傷つけたらレンくんでも許さないよ?』

「わかったよ、レディ」





どっちも大切
(それでねー、レンくんがねー
(さっきから神宮寺の話ばかりだな…
(…マサも幸せにね?
(あぁ、ありがとう
(レディ、聖川と話しすぎだよ?
(私、束縛嫌いなの
(……。
(はは、残念だったな神宮寺。嫌われるぞ
(…クソッ



20130311

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