無口な彼はいつも



「これじゃダメだ」

『…でも、これで精一杯です…!』

「そうか、なら…名前はもう用なしだな」

『!?』




私が一生懸命書いた曲をくしゃくしゃにし、ゴミ箱に捨てた鳳さんが私を睨みながらそう言った。




「あー、酷い事するんだねー」

「……」

「こんな曲じゃ、ST☆RISHには勝てない」

『…っ、』

「これが精一杯って言うなら、クビしかないだろ?」




私はHE★VENSの作曲家。
だけど、認めてもらった事なんて1度もない。全部ボツになる。
だから、今は私の代わりに有名な作曲家さんが曲を作っている。
認めてもらいたくて頑張ってるのに…




『……』

「でも、仕方ないよね?こんだけ頑張っても認めてもらえないんだし」

「……」

「ナギの言うとおりだ」




もう嫌だ。
私って本当は、作曲の才能なかったんだ…。
頑張れない…、毎日毎日こんなの心が削られるだけ




「だから、俺は七海春歌が欲しいんだ」

「僕も欲しいなー」

「……」

『…っ!』




七海って、その人は、ST☆RISHの作曲家さんだよね…?
私の曲が負けてる、だから敵から奪い取るって事?
じゃあ…、私、もう本当にクビ…




『……』

「名前にはHE★VENSから去ってもらおう」

「さんせー!」

『―っ!』

「…待った」

『「「?」」』




涙が出そうになったところで、皇さんが言葉を発した。
彼は、ゴミ箱から先ほど鳳さんがくしゃくしゃにした紙を取って広げた。
それから鼻歌で歌い始めた




「き、綺羅…?」

「お前何して…!」

『皇さん…?』




皇さんは、その曲を少しだけ歌うと、顔を上げ私を見つめた




「…悪くない」

『え…?』

「毎回思ってる。名前の曲、好き」

『皇さん…』




まさか、皇さんからそんな事を言ってもらえるなんて思ってもいなくて、ただただ驚いていた。




「綺羅どうしたの!?」

「…何の真似だ?」

「みんな、イライラしてるからって名前の曲否定しすぎ。もっと聴いてみるべきだと思う」

『……』




こんなに皇さんが、話をしてるの初めて見た…。
しかも私を守ってくれている…?




「名前、もう少し訂正するとこ、ある」

『あ、はい!』

「そこを直せば、俺はいいと思う」

『はい…!』




皇さんはくしゃくしゃの楽譜を見つめ、私に的確なアドバイスをくれる。私はそのアドバイスをメモ帳に書いていく。
明日までには直さないと…!




「綺羅!」

「……」

「なんで名前の味方するの!?」

「…味方とかない。曲が良いから正直に言った」

「…ほーう」

「今まで黙ってたのに、なんで今更!?」




なんか…、このままじゃ皇さんと2人が気まずい雰囲気になってしまう!
それだけは阻止しないと…




『あ、あの…』

「それに俺、名前の事好きだ」

「「『……へ?』」」




皇さん…、今、なんと?
ま、まさかですよね…?




『え、あの、皇さん…?』

「…っ!綺羅のハートを掴んじゃうなんて…!名前って悪い女だねっ!!」

『えぇ!?』

「あはは、面白い!」

「…どこが?」

『…へ?……んっ!』




2人の発言にムスッとした皇さんが、突然私の腕を引っ張り、キスをした。
キスって…えぇ!?
みんなが見てる前で!?な、何してくれてんですか!




「…名前は悪くない」

『…な、なにこれ』

「……」

「「……」」




これ、最初より気まずい…
どうしようか…、いや、どうしたら…!みんなの顔が怖い…!!




「…はぁ、じゃあ好きにすれば?」




帝さんはため息をついて、呆れながら部屋を出ていった。
残されたのは私と皇さんと鳳さんの3人…




「……」

「『……』」

「はぁ、まったく…」




そう言った鳳さんもどこか諦めた様子で部屋を出ていった。




「……」

『す、すみません…』

「…謝る必要ない」

『……』

「…名前は好きか?」

『へ?』

「俺の事」

『あ、はい!皇さんの事好きです。いつも私を温かく見守ってくれたので』

「…いつ?」

『えっと…、私が部屋で曲を作っている時です。扉の方から見てましたよね?』

「……」

『皇さんのおかげでいつも頑張れるんですよ?いつもありがとうございます!』

「…バレてたのか」







無口な彼はいつも
(傍で支えてくれます!
(……
(ありがとうございます!
(べ、別に…


20130819

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