噂の2人





『総悟さん、好きです!』




なぜ…?
なぜこの時、告白してしまったんだろう。町には歩いてる人がいっぱいいるのに…





「アンタの事なんざ知らねぇんで無理でさァ」




私の告白は撃沈した。
告白された相手は、私に冷たく言って私の横を通りすぎてしまった。
1人その場に残された私は、周りの人達にクスクス笑われた









***



『………』

「あれ、あの子だよ…。告白して冷たくフられた子」

「あぁー、あの可哀想な子だよね…?」




あの日から、どうやら私は噂になってしまったらしい。
すれ違う人々が、私を見て噂話をヒソヒソと話している。
もう嫌だな…




『家にこもろっかな…』




こんなはずじゃなかったのにな…。
テレビで沖田さんを見つけて興味をもっただけ。その日から会いたいと思うようになって、見回りの時を狙い遠くの甘味屋からずっと見ていた。
ただ、それでだけ良かったんだけど…、なかなか気持ちを抑えきれなくなって、告白しちゃった…。
あっけなく撃沈したけどね




「あの、お姉さん?」

『…なんですか?』

「あの、噂になってる人ですよね!?」




なんだろう…、
総悟さんとは違って爽やかな青年さんだ。
私の顔を見るなり、瞳をキラキラさせている




「俺、お姉さんの事気になってるんです!あ、俺は朝霧景太っていいます!」

『朝霧くんですか…。私は苗字名前っていいます』

「はい!知ってます!!」




ホント、笑顔が素敵な人。
見た目だと、たぶん私と同い年だと思うな…




『朝霧く…』

「テメェ、来い」




突然後ろから腕を掴まれた。誰かと思い、顔を上げると、真選組の服を着ているが、まったくの知らない人だった。
その人は腕を掴んだまま歩き始めた。

朝霧くんが見えなくなった所で、ようやく手が離れた




『あ、あの…』

「朝霧には気をつけろ」

『へ?』

「絶対に近づくな」

『あの、貴方は…?』

「あ?…土方十四郎だ」




土方さんという方は、名前を名乗ると私に背を向け去って行ってしまった。
お礼がしたかったのに…




『…はぁ』




土方さんには悪いんですけど、できれば総悟さんに助けてもらいたかったな…




『まぁ、いいや』




いつまでもネチネチするのは止めよう。
これで、キッパリと諦めようと思います。









***



『うん、だいぶマシだ』




だんだんと噂もなくなり、いつもの日常が戻ってきた




『甘味屋でも行こうかな』

「苗字さ〜んっ!」

『あ、朝霧くん…』

「お久しぶりです!!」




前から朝霧くんが笑顔で走ってきた。
やっぱり爽やかだなぁ…




「どこか行くんですか?」

『うん、甘味屋に…』

「なら俺、もっと美味しい甘味屋知ってますよ!」

『ホントに!?案内してくれる!?』

「はいっ!」




彼は優しい人だ…。
土方さんには、絶対に近づくなって言われたけど…、こんな爽やかな青年が危ない人なわけないよね




「あはは」

『ふふ、…あれ?だんだん歩いてる人が少なくなってない…?』

「もうすぐですよ!」

『………』




だんだん路地裏へと導かれてる気がする…。
き、気のせいだよね…?




「苗字さん?」

『あ、あの、ちょっと帰らなきゃ…』

「ダメだよ?」

『きゃっ!』




いきなり朝霧くんが私の腕を強く掴んで、少し捻られた




『え…?』

「ホント、苗字さんってバカだよね」

『朝霧く…』

「出てこいよお前ら」




彼の合図で現れたのは…、
チャラチャラした4人の男。それぞれ腰に刀がさしてある




『あの…、』

「沖田総悟に恨み持っててさ、君を利用したんだ」




そうなんだ…。
総悟さんにフられた噂を使って私に近づいたと…、そういう事なんだ




『…何するつもり?』

「沖田に見てもらうのさ、“告白してきた女がフられたショックで自殺した”的な君の死体を?」

『…っ』




彼は笑顔なのにどこか怖い。
きっと本気だ…
嘘でしょ…?じゃあ、私殺されるって事なの…?




『…どうして…?』

「ははは、だから言ったじゃん。沖田に恨みを持ってるって…」




朝霧くんは鞘から刀を抜くと、私に向けて質問をしてきた




「ねぇ、苗字さんはじっくりと殺されたい?スパッと殺されたい?」

『いや…』

「じっくりね、わかった」

『いやっ…!!』




朝霧くんが向かってくるのが遅く見える…。
もしかして、私の人生これで終わり、なの…?




『いや、だぁぁあ!!』










――――ガキンッ!!



「!?」

「おい女、まだ死ぬのは早ぇぜ?」

『…っ』




目を閉じると、少しして刀と刀の交わる音が聞こえた。
すると突然耳元から、聞き覚えのある声がした




『…そう、ごさん…?』

「なんでィ」




総悟さんは私の後ろから、朝霧くんの刀から守るように、刀を抜いて対抗している。
しかも片方の手で、私を抱き締めていた




『…っ』

「うわぁ、本人来ちゃった」

「朝霧、お前ら全員ここでたたっ斬ってやりまさァ」




そう言った総悟さんは、私を今度は後ろに隠すように庇って、5人をあっという間に斬った。辺りは血だらけ…
返り血を浴びた総悟さんは、私の方を向いてきた




「テメェな、朝霧に気をつけろって言っただろィ」

『す、すみません…』

「ふざけんな、人の話くらい素直に聞きやがれィ。チッ、だから女は嫌いなんでさァ」




あれ、それってもしかして告白の返事だったりするのかな?あらら、はっきり言われちゃった。嫌いって言われた。
“知らない”よりはマシか…




『あの、本当にすみませんでした…。このハンカチ使ってください』

「当然でィ」




絶対に総悟さんの前では泣きたくない。もう嫌いなんて言われたくない…




『それでは、ありがとうございました!』




一刻も早く総悟さんの前から立ち去りたかった。
血まみれの場所に総悟さんを置いて、全力疾走した。

路地裏を出て、人気のある道へと出てきた私は、こらえていた涙を一気に流した




『…ウック、…ヒック、』




嫌いだって…。
…っていうか、よくよく考えたら「朝霧に近づくな」って土方さんに言われたと思うんだけど




『もう、いいや…』




また周りがヒソヒソ話始めたんだけど。
人が泣いてるのがそんなに珍しいのかよチクショー、泣いてる人いたら見てみぬフリくらい出来ないのか…!






「ま、待ちなせェ…!!」

『…っ!』




突然誰かに後ろから抱き締められた。
なんか、鉄くさい…?って事は…、返り血を浴びたあの人しかいないよね?




『…総悟さん?』




なるほど、町の人々は泣いてる私を見てヒソヒソしていたわけではなく、返り血を浴びた総悟さんを見てヒソヒソしてたんだ




「何泣いてるんですかィ?」

『はは、おかしな人。総悟さんにフられたから泣いてたんですよ』

「………」




すると、私を抱き締めている力がちょっとだけ強くなった。彼は顔を私の肩にうずめてきた。




「すいやせん…」

『…え?』

「別に、アンタが嫌いな訳じゃありやせんぜ」

『……』

「ただ心配してたんでさァ。俺はどうも素直になれやせんからねぇ…、思いと態度が逆になるんでさァ」

『そう、なんですか…』

「はい、だから嫌いじゃありやせん」

『え?……んっ、』




それってどういう意味なんだろうと、思って彼の方を向いたらキスされた




「…泣かせるつもりはなかったんでィ」

『総悟さん…』




貴方は、どうして私の心をそんなに動かすの?
フられて悲しくなったり、助けてくれて嬉しかったり、嫌いって言われて絶望的にさせたり…、こんなにも貴方に振り回される…。これって総悟さんの事が好きだから?





噂の2人
(総悟さん
(なんですかィ?
(私「朝霧に近づくな」って土方さんに言われた気がするんですけど…
(!?…き、きっと気のせいでさァ!
(本当はあの時近くにいたんですか?
(!?
(実は私の事、知ってたんですか?
(も、もう黙ってくだせェ



20130618

- back -


[prev] | [next]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -