今更だけど






『ねぇ、吉原の英雄なら私をここから出してよ』











今日、俺は吉原に用事があってそこで団子を食っていたら、今の言葉を目の前に立っている女が俺に向かって言った




「は?」

『私を出して』

「どこから?」

『吉原から』




目の前の女は、何か変だ。俺を見ているその目は闇に飲み込まれてるみてぇだ…。ずっと見てると俺も飲み込まれる感じがする




「なんで?」

『………』

「…名乗らない奴を出させる気にはならねぇな」




ちょっと挑発的に言ってみると、女はやっぱり無表情




『私は名前』

「俺は坂田銀時」

『知ってる』

「………」




誰かに似てるなと思ったら、見廻組の今井信女みたいな感じだ。




「名前ちゃん、吉原出て何するの?」

『…うるさい』

「泊まる家も、金もねぇくせに地上に出て何すんだ」

『いいから、出せ!』




名前の目に怒りが見えた。でも、奴の目には太陽も月も射し込めないほど深い深い闇しか映ってない




「わーったよ、うるせぇ。そんな怒鳴るな…」

『…ありがと』

「………」




若ぇのに、なんて目してやがらァ…。きっと何かスゲー辛い事があったのか…、また別の事か…。
俺は座っていたベンチを立ち上がり、吉原の出口へと歩きだした。すると、後ろをついてきた名前




『………』

「なぁ、おたくいくつ?」

『…18歳』

「へぇ、若いね」




18歳っつったら、お妙と沖田くんと同じ年じゃん。
つか、アイツ等同い年なの?




「ぎ、銀時!!」




後ろの方から誰かに呼び止められたので、仕方なく足を止め、後ろを向いた




「なんだ?…月詠か」

「ソヤツは危険な女だぞ!」

『………』

「は?どういう事?」

「ソヤツは…、名前。またの名を闇の花魁…!」

「は?闇の花魁?」




吉原一の花魁なら知ってるが、闇の花魁ってのは知らなかったな…。




「なぁ、闇の花魁ってのはなんだ?」

「それは…」

『人殺し』




今まで黙っていた名前が、月詠の言葉に被せてきた




「へぇ、人殺し」

『正確に言えば、頼まれたら絶対に殺す』

「もはや殺し屋じゃん。どこが花魁なの」

『…さぁ』

「だから銀時!ぬしも危ないかもしれんぞ!!早く離れなんし!!!」

『そうね…、吉原の英雄さんを殺せばいいのかしら』




名前はいつの間にか俺の背後にまわり、階段を一段上がって、俺の首に刀を突き付けてきた




「おい!やめるんじゃ!!」

「おいおい…」

『貴方のその顔、おもしろいわ…』




でも、なんでかね。
コイツの手が微かにカタカタ揺れてるんだよな

吉原出たら話でも聞くか…







――――グイッ



『!?』




俺は一瞬の隙を見て、肩に名前を担いだ。軽いな




「…月詠、みんなには黙っとけよ」

「な、なにを…」

「俺はコイツを逃がすわ」

「!?」

『………』




そう月詠に言って、地上に行ける出口へと向かった









***



「おら、地上だぜ」

『…わぁ』




ちゃんと太陽が、空がある地上へと出てきた名前は目に光が入っていて、喜んでいる様子だった




「…そういえば、なんで吉原出たかったの?」

『………』

「あれ…、無視?」

『ずっと生まれ変わりたかったから…。吉原の英雄が今日来るって聞いた時、チャンスだって思った』

「…そーかい、ならもう自由だな」

『…銀時、ありがと』

「おう」




名前は俺に背を向けて走って行った。
別にいい事をしたとは思ってない。人殺しを野放しにしたって事だからな


でも、アイツは変わるって信じてっから…。
悪さをしない、ちゃんと自分の意志で生きるって信じてる






















『銀時、おはよー』




万事屋のソファーに座っている、俺の向かいには…、笑顔で挨拶をする元闇の花魁の姿だった




「か、変わりすぎだろぉぉぉぉお!!!」

『うん』

「いやいや“うん”じゃねぇから!!」




彼女の瞳にはちゃんと光が入ってる。太陽の光も月の光も射し込んでいるみたいだ




「…あの、銀さんびっくりなんですけど…」

『そうかな?』

「そういや…、今どこ住んでるんだ?」

『えっと、江戸を離れた所で…』

「ふ〜ん」




しかし…、人ってこんなにも変わるものなのか?
つか変わりすぎじゃね?




『今はね、お爺さんお婆さんの手伝いをしてるんだー』

「お、偉いじゃん」

『へへ』

「…あのさ、」





今更だけど
(名前だよな…?
(うん!
(うん、銀さんの記憶が正しければ、君はもっと無表情で無口だったよね…?
(人って変わるの!
(テメェは変わりすぎなんだよ!!



20130612

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