副長の気持ち



『はぁ、はぁ…!!』




逃げるしかない。もうこうなった以上あの人の前から逃げるしかないんだ…。



私は、山崎くんと同じ真選組の監察をやっていた。
でも、本当は春雨の神威の命令で真選組に入った私。
それでさっき近藤さんを狙って発砲したのだが、見事に外した。危うくなって真選組から今逃げたところ








「スパイちゃーん」

『!?』

「逃げるこたァねぇだろ…。まさかテメェが真選組のスパイをやってたとは…名前」




この声は、私の1番好きな人の声…。
まさか、追いかけきた…?




「こっち向けや」

『…っ、副長…』

「はは、まだスパイから副長なんて言われるんだな」




彼は…
真選組の副長、土方十四郎

監察の時はずっと私に優しくしてくれて、なんとか動きやすかった。
近藤を暗殺し、彼もまた暗殺の対象だった




『はぁ、はぁ…』

「なんか喋ろよ」

『近藤暗殺は…、失敗です』




いつも私に優しかった副長が、今は怖い顔して笑ってる。
…どうして私は殺し屋やスパイなんてやっているんだろう。普通に生きたかったのに…。


普通に恋して、



普通にラブラブして、



普通に結婚したかったのに


まぁ、神威に拾われた以上従うしかないんだけど…




『でも、これでみんな死にますね』

「は?…今ここでテメェを斬れば死なねぇさ」

『………』

「なんだ?怖くなったか」

『…いえ』




死ぬのはそんなに怖くない。昔、神威のせいで死にかけた事があったから…。
その傷痕は今でもハッキリ首に残っている




「そうだったな。昔死にかけたって聞いた事あったっけ」

『はい』

「お前は…、俺が殺す!」




副長の目が本気になった。
彼の周りは殺気でいっぱい。私逃げられるか…?これ…




『………』

「…チッ!」







――――ガシッ!



『カ、カハッ…!!』




いつの間にか副長が私の前まで来ていて、私の首を思いきり掴んだ。
それから、私の背中がブロック塀にあたった。痛い…




「じゃあ、じわじわ殺してやるよ…!」

『グアッ!…く、るしっ!』

「はは、笑えるな」




頭に酸素がいかない。
苦しい…、首を締められるのってこんなに苦しいのか…。
今まで自分は、こんな事何回もやってきた。こんなにも苦しいものだったんだ…




「………」

『…グゥッ!』

「…やめた」

『ゲホッ!!コホッ、コホッ…!!』




副長が手を離せば、咳がでてむせる。足に力が入らず、そのまま地面に座った。




「…なんか、いい殺し方ねぇかな?」

『…ケホッ、』




副長が私に背を向けると、そのまま考えこんだ。
おかしい…、副長なら私をすぐ殺すと思ってたのに




『ふくちょ……、う…?』




なんだろう…。
右の胸下あたりにすごい違和感がある…




『………』




ゆっくり下を向くと、違和感があるところから手が生えてる…。
え?手って事は…、これはきっと…




『ゴフッ!!』

「?」




手を抜かれ、私の体は地面に崩れる。副長は私の方を向くと、目を見開いた。




「なっ、名前!?」

『…ハァ、ハァ』




副長は、私の方へ駆け寄ってきてくれた。
私の体に出来たぽっかり空いた穴を見て、副長は険しい顔をしていた




「あれ?君が副長さん?」




ブロック塀の上から聞こえるのは、能天気な声。まさか…




「テメェは…」

「俺は神威だよ」

「………」




手に付いた私の血をペロペロ舐めている。気やすく私の血を舐めるな気持ち悪い奴め…




「その血…」

「あぁ、これは名前の血だよ。あれは俺がやったんだ。ブロック塀なんて俺には関係ないよー」

「…っ!」







――――ガシッ



「?」

『ダ、メ…。神威は…、強いから…!』




私は、殺気でまみれて今にも神威に飛びかかろうとしている副長の手を掴んだ




「名前、お前はもう春雨にはいらないから」

『そ、んな…』

「死んでもらうよ。…まぁ、後に死ぬと思うけどね」

『………』

「じゃあね」

「…あ、テメェまちやがれっ!!」




副長の言葉を無視し、神威は暗闇に消えていった




「…チッ」

『ふく、ちょう…』

「どうした!」

『好、きでした…』

「なっ…!」




私は、副長に気持ちを伝えたと同時に意識を手放した。




「名前っ!!」




暗闇の中で、副長が私の名前を呼んでいた気がする。副長、泣いてた…























『………』

「………」

『………』

「…で?なんだって?」

『あの、自分が夜兎族だって事忘れてまして…。傷がふさがるの早かったといいますか…、おかげで血が大量に出なかったといいますか…』

「………」




傷は1日で塞がり、どうしようと思い起き上がると、真選組の、しかも副長の部屋で寝ていた…。
辺りを見回すと、ちょうど副長が部屋の襖を開けていた



で、今にいたる…




『…私、真選組の前から消えようと思います』

「は?」

『スパイだって皆にバレたのに呑気にここで過ごせないですし…、近藤さんだって…』

「………」




副長に背を向けて話をしていると、副長が私の前に座ってきた。




「勘違いしてるから言うけどな…、俺以外お前の事がスパイだなんて知らねぇよ」

『えっ?』

「近藤さんを狙って発砲したのは許せねぇけど、わざと外して発砲した名前をたまたま見ちまったからな」

『…でも、いられないです。騙した身ですから』

「…あぁ゙もう!!」







――――ギュッ



『!?』

「俺は、名前にいてほしいんだよ!!」




副長は荒々しく私を抱き締め、照れながら大きな声でそう言った




『い、いいんですか…?』

「いいって言ってんだろ。俺も名前が好きだから…」

『っ!』

「はは、顔真っ赤だぜ?」

『ふ、副長もですよ!!』





副長の気持ち
(なんで私を副長の部屋に寝かせてたんですか?
(墓とか作った方がいいなと考えて部屋に寝かせて、戻ってきたらお前が起きてた
(私がスパイってわかった時、どんな気持ちでした?
(最悪だったな
(ですよね…
(と、同時に奪いたい気持ちが出てきた
(…っ
(今は、俺の傍に名前がいるから嬉しいな
(副長…、わざとでしょ!照れるからやめてください!



20130609

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