江戸の思い出




『あぁー、土方さんだー』

「あ?…テメェかよ」




昨日、お母さんにおこづかいを貰ったので、今日は江戸の甘味屋さんに来ています。それでみたらし団子を食べていたら、土方さんが私の目の前を通った




『久しぶりですね!』

「そうだな」

『団子食べます?』

「ん?いや、いい」




さりげなく私の隣に座る土方さん。彼は真選組の副長さんで、毎日江戸の見回りをしている。
約半年前に、江戸に来ていた私は、攘夷浪士に斬り殺されそうになったところを彼が助けてくれた。
その日から、土方さんに恋心を抱いてます




『会ったの4回目です』

「まだそんなもんか?」

『そうですよー』




そう…
私はおこづかいを貰った時にしか江戸に来れない。
家は江戸よりちょっと遠い所にあるからなかなか来れない




『それより仕事は…?』

「お前さ…、俺が毎日仕事あると思うなよ。今日は非番」

『え?じゃあ案内してくれませんか!?私、江戸ってまだよく知らないんですよね』

「別にいいぜ」




やったー!!
今日は1日中、土方さんといれるぞー!




「ほれ、行くぞ」

『はーい』

「あんまり期待すんな」

『わかりました』









***



「お、あれれ〜多串くんじゃ〜ん」

「…チッ」

『?』




大江戸スーパーに行くと、漫画コーナーで漫画を読んでいた白髪の天然パーマさんが、土方さんに話をかけてきた




「つか何?お前も俺をストーカーしてんの?」

「誰がテメェみてーな奴ストーカーすっかよ」

「わからんよ?…おい」

「あ?」

『?』




天然パーマさんは、私の顔を見るなり頬を赤く染めた




「めっちゃ可愛い!何っ!?お前の彼女っ!?」

「ちげぇよ!!」




わかってるけど、そんな必死に否定しなくたっていいのに…




「そうなの?あ、俺は坂田銀時ね。君は?」

『苗字名前です…』

「はは、名前まで可愛いな!この子俺に譲ってくんね?」

「譲らねぇよ!!」

『え?』




土方さんはそのまま私の手を引いてスーパーを出た。
坂田さん何か言ってたみたいだけど、何も聞こえなかった




「ったく…、マジ最悪な気分だぜ」

『ひ、土方さん…?』

「あ?…っ!わ、悪い!!」




手を握ったことに気づいた土方さんは、顔を真っ赤にし慌てて手を離した。




『………』

「ちょっと待ってろ。自販行って来る」

『は、はい!』




一度も顔をこちらに向けずに、土方さんは自販機に向かって行った。私は近くにあったベンチへと腰掛ける




『なんか、恥ずかしい…』




あの人が、まさか手を繋いだだけで照れるなんて…。
大人なのに可愛い人だ!意外とウブなんだね




「貴様、真選組土方の女とお見受けする」

『…え?私、彼女に見えますか?』

「あ、あぁ…」




10人くらいの男の人達が目の前に現れた。江戸ってすごいな…。
しかも「土方の女」って言ってくれました!!
嬉しいよ!




「そんな事はどうでもいい」

『?』

「この恨み、貴様ではたす!恨むなら土方を恨め!」

『!?』




男達は勢いよく鞘から刀を抜き、一斉に襲いかかってきた




『きゃあ!!』

「逃げるこたねぇだろ?」

『ひぃ…!!ひ、土方さぁんっ!!!』










――――ドカッ!



「うがっ!!」

「おい。相手間違えてんじゃねぇか?」




いつの間にか目の前には土方さんの姿が。土方さんは木刀で一人の男を殴り飛ばした。




「テメェら良かったな、俺が木刀で。喜べ」




怖い笑顔をした土方さんはその後も、攘夷浪士10人を次々と倒していった









***



「はぁ…」

『………』

「大丈夫か名前!」

『はい…』




江戸って恐ろしい…。
土方さんは毎回こんな大変な事をしてるんだ




『へへ…、慣れてないから、体が震えてます…』

「………」







――――ギュッ



『…ひ、土方さん!?』

「離れてすまん…。怖かったよな」

『…はい』

「…だったらもう、俺には近づくな」

『え?』




土方さんに抱きしめられて、嬉しいと思っていたのに思わぬ事を言われてしまった。
近づくなって…?




「江戸には来るな」

『な、んで…!』

「いいから。今すぐ帰れ」

『…バカッ!!土方さんのバカーーッ!!!』

「あ、おい!」




私は土方さんの腕から離れ、全力疾走で逃げた。
嫌だ…!二度と土方さんに会えないなんて嫌っ!!









***



あぁー…
土方さんになんて事言っちゃったんだろう…。絶対怒ってるよね…




『…でも、あんな事言われたら悲しいよ…』




だって、二度と土方さんに会えないって事だよ?そんなの耐えられない…




『どうしよう帰りたくない。帰ったらもう会えないし…』




私は、公園にあるゾウさんの滑り台の下で過ごす事にした




『会えないなんて嫌だ…』




なんで土方さんはあんな事言ったんだろう。江戸は危険でいっぱいだから?
心配してくれるのは嬉しいけど…、好きだから一緒にいたいのに




『ばか…』




私はふと、目を閉じた…






























「……い…!……お…い!…名前起きろっ!!」

『ん…?』




あれ?私いつの間に寝てたんだろう…。
…ってか土方さんが目の前に!!




「チッ、心配させんじゃねぇよ!!!」

『!』




怒ってる…。ものすごく怒ってる




「お前の親から真選組に連絡あったんだよ。娘がまだ江戸から帰って来ないってな。ったく…、非番だってーのにいい迷惑だぜ…」

『…ごめんなさい』




私がいる事自体迷惑だったんだ…。せっかくの非番をぶち壊しちゃって、悪い事しちゃったな…




『…今すぐ帰ります!あの、今までありがとうございました』




土方さんに背を向けて歩き始めた。
これでもう会えない…
最後なんだ…。

出てくる涙をグッとこらえる




「………」




江戸には苦い思い出しかないよ…。攘夷浪士さんには2回も斬り殺されそうになったし…、土方さんにはフられるし…。楽しい思い出作りたかった




「待て」

『?』




土方さんがいきなり私の手を掴んできた。




「いいか、もう江戸には来るなよ」




ここはもっと甘い言葉を言うところじゃないの…?
なんで改めて言うの。わかってるよそんなの…!!




『………』

「携帯もってるか?」

『…はい』




私は鞄から自分の携帯を取り出し、土方さんに渡す。
すると土方さんは何かを打ってるみたいだった




「ん」

『?』

「俺が、お前の町に行く時に連絡するから」

『!?』

「その…、二度と会えないわけじゃねぇから…」




土方さん…、私の気持ちがわかるなんて…、エスパーなんですか…?
…っていうか照れる




『…私の町に、遊びに来る時だけですか?』

「…わ、わかったよ!いつでも連絡してこい!!」

『はい!わかりました!』




結局、駅まで土方さんに送ってもらいました。

初めて…いや2個目か。
土方さんに会えた事と土方さんの気持ちがわかってきた事…。江戸での唯一のいい思い出ができました





江戸の思い出
(土方さーん、何携帯見てニヤついてるんですかィ?
(ニ、ニヤついてねぇよ!
(トシ…、やっとメアドゲットしたのか?
(は?
(だって半年前に「気になる女が出来た」って言ってたじゃん
(なっ…!
(へぇー、それでニヤついてたんですかィ。気持ち悪ぃ
(う、うるせぇ!!



20130511

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