不器用な男



『総悟、…総悟ってば!!』

「なんでィ。うるせェな…今俺ァ書類書いてるんでィ」

『ねぇ、いつも仕事仕事って…いつ遊んでくれるの?』

「遊ぶ暇はありやせん」

『本当に仕事ばっかり…。私がこうして総悟に会いに来てるっていうのに…』

「会いに来いって言ってねーんですがねィ」

『っ、死ね!』

「てめーがな」

『帰る』

「あぁー帰りやがれィ」




書類にしか見てない総悟から離れ、急ぎ足で自分の部屋に入った。

あーそー!もう知らない!!
そういう態度ならこっちだって自由にやってやる!!!総悟のバカっ!!













***



『…とか、散々思ってたくせに…熱出るとか、どういう事っ…』




昨日の夜から急に寒気がして、体がだるくなった。朝熱を測ると、38.6
まぁ、熱っちゃ熱。怠くて死にそう…




『…ゴホッ、…ケホッ!』

「名前、ちょっと開けるぞ」

『!?ひ、土方さん!?ダメ…!』




ヤバい!真選組たる者が、熱でダウンしてるなど副長の土方さんに知られたら…!!
せ、切腹もんだぁ…!!




「ちょっと話が…っておい!その真っ赤な顔はどうした?熱あんのか!?」

『うぅ〜…すいません…』

「何謝ってんだよ、別に悪い事してないだろ。それよりほら、寝とけ」

『はい…』

「熱は測ったのか?」

『はい…』

「飯は?」

『…まだです』

「じゃあ作ってくるわ」

『ええ!?いいですよ!そこまでやってもらうなんて土方さんに悪いです!』

「こういう時こそ、甘えておけ。お前は女なんだからよ」




そう言って頭を撫でてくれる土方さん。
総悟にはない優しさを持っている…。精神も身体も弱ってる時に優しくしないでください…
昨日総悟と喧嘩したばかりなのに〜…




『…コホッ、』




布団には潜らず、上半身だけ起こしていた。

もしかしたら総悟は、私と嫌々付き合ってるのかもしれない。
…私から無理矢理だったし、それに、神楽ちゃんという気の合う人がいるもんね…




『神楽ちゃん、か…』




年下に負けるなんて…、でも彼女は総悟と互角に戦えるから羨ましい…。
私は守ってもらう事しか出来ない。一緒には戦えないんだ。一歩後ろで総悟の背中を見てるしかない、隣にはいられない

すごく悔しい…!


私は総悟の彼女に相応しくないっ…!!




「おい、出来たぞ…ってどうした!?」

『ひじっ、かたさんっ…』

「どこか痛えのか?どこが痛えんだ?」




お粥を机に置くと、近くまで来て背中を摩ってくれた。涙がポロポロと出てきて止まらない。
しばらくすると土方さんが、私と向かい合わせになり、腕を背中に回してトントンと優しく子供をあやす様に叩いた。頭も撫でてくれる




『ひっぐ…ひじ、がだざんっ…』

「…どうした?何があった?」

『ぐやじい…!!心がっ、痛いです…!!』




総悟は最初から私の事なんか好きじゃなかったんだ。




「…総悟か?」

『…はっ、い』

「…心配する事なんか、ないと思うぜ?」

『…?』

「アイツも不器用なだ…」

「おい、なんで食堂にいないん、でさァ…?」




なんというタイミングで入ってくるんだ?

なんか、空気が重いし怖い…




「おい、土方。これはどういう事でィ…?」

「…っち、慰めてただけだ」

「へぇ、それで人の女に手ェ出したんですか」




総悟の声が低い。瞳孔が開いている。顔が怖い…。
こんなの、見たこと、ない…




『も、もともとは総悟のせいなんだからっ!!』

「…ぁ?」

『っ!?』




こ、怖い!想像以上に怖いです!!




「名前、説明しろィ」

『そ…総悟の態度が、いつまでもっ、つ、冷たいから…』

「…だから土方に行ったのかァ?」

『…ぐっ!』

「おい総悟っ!!コイツは…!!」

「うるせぇ」




彼が近づいてくると胸倉を掴まれた。
熱のせいでボーッとする。頭も痛い。 強く掴まれてないのに苦しい。




「おい、なんとか言え」

『…ゴホッ、ゲホッ!』

「…誤魔化すんじゃねぇ」

『そ…総悟なん、て…ゴホッ!きら、い…』




そこで意識をなくした。










ここは、どこだろう。暗い…。なに?沼…?
気持ち悪い…?
あ、あそこに総悟がいる…。総悟…、総悟!総悟ォ!!

何度呼んでも振り向いてくれない。光の方へ行こうとする総悟。前に進みたくても沼でうまく動けない。


待って…!!光の方に行かないで!!
私を置いて行かないで…!!
待って…!!待ってよォ…!!!




『待ってェ…!!!』

「名前っ!?」

『待ってえ…!総悟ォ…!待ってよォ…』

「名前!俺はここにいまさァ!!」

『はぁ、はぁ…そう、ご…?』

「…大丈夫ですかィ?」




見慣れた天井。私の部屋か…?
見慣れない彼の悲しそうな顔。土方さんは帰ったんだろうな…。




「…名前?」

『…総悟、』

「起こしますぜ?」




総悟の手を借りて上半身だけ起き上がった。
そしてそのまま総悟の胸の中へと閉じ込められた。

久しぶりの温もりだ…




「すいやせん…。病気だったってーのに乱暴な事して…」

『ううん、大丈夫…』

「…冷たい態度とってすいやせん」

『……』

「…不器用な男で、すいやせん」

『もう、いいよ』

「…それは、俺の事もう好きじゃねぇからですかィ…?」




顔を覗いて見ると、涙を我慢してる顔がとても可愛かった…。




『違う、これからは優しくしてくれるから、許すって事』

「…名前っ」

『はは、可愛い…』

「うる、せぇ!」












「でも、土方さんは許さねえ」

『…はは、』




ごめんなさい、土方さん…




20150730

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