今日も雨が降る





――名前は?





―――先生、名前は?













「――っ!!…はっ!…ハァ、またか…」




嫌な夢に目が覚める。

俺は月に一度見る夢がある。まだ高杉やヅラ…先生とで楽しかった頃の夢。
実は、その時から俺には好きな人がいた。名前は苗字名前という。
おちゃめで、髪がショート、花がとても似合う女…女の子だった









――――…



『銀時って変な名前』

「…は?」

『私は苗字名前!よろしくね銀時っ!!』

「………」




最初の印象は変な女だと思った…。
初対面に「変な名前ね」とか言うか?普通…




『銀時、おやつ食べよ!』

「…おう」

『今日はねぇ…。いちごオレと饅頭だよ!!』

「…いちごオレって何?苺が入ってんの?」




この時の俺は“いちごオレ”を知らなかった。名前がいちごオレを持って来なかったら今頃どうなってたんだろうな。




『銀時ぃ〜…ズビ、…』

「…どうした?」

『男の子、…ヒック…達に…や、やられたぁぁぁあ!うわぁぁぁあん!』




名前は、塾を出て遊ぼうとした時そこらのクソガキに殴られたらしく、体の所々に痛々しいアザがあった




「自分で何とかしろ」

『うっく…』




俺はツンデレだったんだな。「自分で何とかしろ」って言ったくせに、この後名前に内緒で殴りに行ったもん。
もしかしたらこの頃から俺は名前が好きになってたのかもしれねぇ…


いや…、好きだったんだ。
ただ認めたくなかった。俺みたいな汚れた奴に恋なんてしていいのか…。
悩んでたんだ…。そしたら名前は告白してくれた。ちゃんと『好き』って言ってくれた


嬉しかった…。嬉しかったのに認めたくなかった。だから「俺は嫌いだ」って想いとは反対の言葉を言ってしまったんだ。
名前が泣きながら走りだした瞬間、雨が降り出したのを覚えてる。



この日の夜、名前はいなくなった。…家に帰って来なかったらしい。
翌朝、先生と一緒に名前を探しに出かけたけど、どこにもいなくて皆が諦めていた時だった。ふと崖になっている所に綺麗なお花を見つけて近寄ると、崖の下に足が見えた。先生を呼んで下の方を見てみると…



名前が死んでた。
俺のせいだと後悔した。…俺が「嫌い」なんて言ってしまったから…






―――…



毎月に一度そんな夢を見る。もしかしたら俺は、名前に恨まれてんのかもしれねぇな




「仕方ねぇよな。…はぁ、昔の自分が嫌になる」







――――ピンポーン



「はいはーい、新聞はいらねーぞォ」

「新聞ではありません、依頼しに来ました」




玄関を開けると、髪が長く、スラッとした綺麗な美人さんが立っていた…。




「え、えっと…、お上がり下さい!玄関じゃあれですから!ねっ!?」

「はい」









***



「…人を捜してほしいんです。私、昔から忘れられない男の人がいまして…」




なんだよ!
想ってる奴いんのかよ!!




「はいはい、それで?」

「私、昔に引っ越をしてまして、男の子と離ればなれになってしまったんです。だけど私またここに帰ってきたんですが、その男の子にまだ会えてなくて…」

「可哀想だな…。よし、俺も一緒に探してやる」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!万事屋さんて優しんですね」

「ま、まぁーな」




美人さんの悲しい顔を見せられると、なかなか断れないわけで…。逆に笑顔になってくれると嬉しい…。









***



「そんで?男の特徴とかわかる?」

「ごめんなさい…。数年前なんであまり覚えてません…。けど優しい人でした」

「そっか」




しかし暑い。なんで夏ってこんなに暑いんだ?俺を殺すつもりか!
お嬢さん汗かいてないけど暑くないわけ?




「暑いですね、私飲み物買ってきます!」

「え?」




あ、暑かったのね…。
つか、嫁に欲しいわ!なにこの気遣い!あの子優しい!!
…つか、こんな天パで嫁なんか来るかっつーの




「はい、万事屋さん」

「ありがとなー…え?」

『?』




あ、あれ?なんで…




「どーかしました?あ、もしかしてお嫌いでした!?」

「い、いや…、めちゃくちゃ好きだけど…」

「ですよね、よかった」




俺、この子に“いちごオレ”好きって言ってないよな…?




「…ねぇ、俺あんたに好きなもの教えたっけ?」

「え?…あっ!」

「………」

「………」

「…あの…」

「…ご、ごめんなさい!」




美人さんは涙を流がすと、俺から離れてどこかに行ってしまった。
そして雨が降り出す―







――――ザァァァァア!



「…ありえねぇ」




名前みたいだった…。いやいやでも、あいつは確かに死んだんだ。この世にいないはずない…。
…じゃあ、あれは誰だ?…いちごオレもたまたまじゃね?しかも名前は子供の頃に死んだんだ…、大人になるはずがない…


ナイナイナイナイナイ!!




「…ん?美人さんのか?ブレスレット変わってんな」




地面には、美人さんが落としたらしきブレスレットが落ちていた。そのブレスレットには何故か見覚えのある花の付いた可愛らしい物だった




「これ…」

「銀時!!こんな所におったか!なぜ傘を持っておらん!風邪引くぞ!!」

「ヅラ…」

「ヅラじゃない桂だ。あ、銀時よく聞けよ?さっきだな…、すごい美人さんとぶつかってしまった!会った事もないのだが俺の名前を言って去ってしまった。俺ってそんなに怖い顔してるか?」




美人さんがヅラの名前を知ってるはずがねぇ…。やっぱりアイツは名前なのか…?
いや、でも…ヅラの名前もたまたまじゃね?コイツ犯人みたいなものだし




「ん?銀時…、そのブレスレットは昔名前が大事に付けていたものではないか…?なぜ今貴様が持っている!」

「やっぱり…、あいつは名前だ!!」

「え?あ、あいつって誰の事だ!?」




俺はヅラの言葉を無視して名前が走っていった方向へと向かった。









***



「名前!」




名前は公園のベンチに座っていた。なぜか雨に濡れてはいなかった




『万事屋さん?私は名前ではないですよ』

「…ほら、コレ落としてったぜ?」




彼女にブレスレットを渡す




『あ、ありがとうございます!探してたんです…!』

「お前、名前だろ?ヅラの名前を知っていたのと、ブレスレットが何よりの証拠だ」




美人さんは俺の言葉に俯き、少ししてまた顔を上げた。




『…銀時、私の事覚えてくれてたんだね』

「当たり前だろ。…なぁ、名前?お前は死んだはずじゃなかったの?」

『死んだよ。銀時に会いたくなって…』

「なんで?」

『まずはね、私は銀時の事をまったく恨んでなんかないって事』

「…恨んで、ないのか?」

『うん。あれは綺麗な花があったから取ろうとしたんだけど、誤って足を滑らせちゃって…』

「…っ!」

『それと銀時の本当の気持ち聞いてないなって思ってさ』

「俺の、本当の気持ち?」

『あの時は「嫌い」なんて言ってたけど、銀時は嘘つくの下手すぎるんだから』

「…あの頃は、認めたくなかったんだ。俺はすごく汚れてっから人を好きになってもいいのかって思って…」

『で?結局どうなの?』

「名前の事…、ずっと前から好きだ」

『やっと本当の気持ちが聞けた…』

「え?」

『もう、心残りはないよ…。ありがとう、バイバイ銀時。変な名前だけど、私も銀時好きだよ!』

「ちょ、ちょっと待て!」

『それに、小太郎と晋助にも「ありがとう」って言っといて!』

「はぁ?テメェで言えよ!」




名前の手が俺の頬にそっと当たる。
体温は伝わらないけど…




『…泣かないでよ』

「な、泣いてるわけないだろっ!」

『逝けないじゃん!』

「逝けよ!」




すると、名前の体が透けてきた




『…このブレスレットはね、昔に銀時が作って、私にくれたものだよ』

「覚えてるに決まってんだろーが!なめてんのか!」

『忘れてるかなと思って一応言ったんだよ!』




触れる事が出来るか分からないけど、名前を力一杯に抱き締める




『今でも大好きだよ…』

「俺も大好きだぞォ、コノヤロー」

『うぅー!』

「はぁ、名前泣くなよ…最後の最後で」

『銀時もだよ!…あ、小太郎と晋助がいるよ!』

「あぁ゙!?」




名前は俺の後ろにいる奴らに笑顔で手を振り、最後俺に笑顔を向けてスーっと消えていった…。

そして雨もやみ、快晴になった




「名前、ありがとな…」

「なぁ銀時。名前は大人になったらすごい美人さんなんだな」

「あぁ…。つかお前さっき傘持ってたよな?なんで濡れてんだよ」

「名前があんなに美人になるとは誰も思っちゃいめーよ。あんなクソガキだった奴。クソ、ガキ…」

「…だな。つか地味に泣くなよ高杉。ホント何でお前らいるの」

「それはな、友との別れの時は見送らないといけないからだ」

「…銀時の泣き顔を見たかっただけだ」

「殺すぞ高杉」

「はぁ、嘘に決まってんだろーが。ただ名前の笑顔が最後に見たかっただけだよ」

「…そうか」

「高杉に銀時、酒を持ってきた!一緒にここで飲もうではないか!」

「俺は別にいいけど、どうするよ銀時」

「ここ公園だけど…、俺も別にいいよ。酒が飲めるなら」




公園で酒を飲むオッサン3人ってのも、シュールだけど楽しいからいいっつーか、名前がまだそこにいる気がして離れたくなかった





今日も雨が降る
(…久しぶりだな。みんなで飲むの
(あぁ、まったくだ
(ククク…うめぇな…



end.

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