短冊の願い




『総悟』





これはまだ、真選組が結成される前、彼らが江戸に上京する少し前の七夕のお話である




「なんですかィ?」




稽古中に外から、名前がひょっこり顔を出してこちらを見れば俺を呼んだ。




『短冊、一緒に書こ?』

「いいけど、俺は今いそがしいんでさァ。後にしてくだせぇ」

『…うん』




名前と話していると、土方のクソヤローが近づいてきた。コイツは昔から嫌いだ




「おいガキ。稽古中だぞ」

「知ってまさァ。指図すんな瞳孔男」

「!?」

「ほらこの通り俺はいそがしい。名前には悪いが、短冊は後にするぜ」

『…うん』




名前はしょぼんとしながら部屋へと戻っていった




「ん?あのガキ誰だ?」

「…紹介がまだでしたねィ。あいつは名前っていって、近藤さんの娘みたいなもんでさァ」

「え゙っ!?あいつ結婚してんのか!?」

「だから“みたいなもん”って言ってるんでィ。名前には親がいねぇ。近藤さんはなるべく名前を悲しませないようにしてるだけでさァ」

「…ふーん」

「稽古に行きますぜ?土方コノヤロー」

「くそガキ…!!」









***



『短冊、思いつかない』

「名前ー!!書けたかー?ってまだみたいだな…。なるべく今日書けよ?」

『おとーさん!』

「どうした?わが娘よ!」

『あのね、総悟とトシの短冊もね、飾りたいの』

「あぁ、全然かまわんよ!!名前の好きにしなさい。…あれ?でもあいつら稽古中じゃ…」

『さっき言われた』

「そうか…。せっかくいっぱい短冊あるし俺も書こう!名前ペンかして」

『ん』

「サンキューっと…」




キュッキュッと音をたてながら短冊に書いていく私のおとーさん。
みんなは「ゴリラ」って呼ぶけど、全然ゴリラじゃないよ




「よし出来た!俺の願いはこれだ」

『?』




そこには
“皆で江戸に行きたい”
端っこには
“名前が可愛く、いい子に育ちますように”




『おとーさん、江戸に行きたいの?』

「まぁな!もちろんその時は名前も連れてくぞ!」

『うん!』

「…名前、悪いが俺の分まで笹に付けといてくれ」

『いーよ』

「いい子だ」




おとーさんは私の頭を撫でると、ニッコリと微笑みながら部屋を出ていった




『おとーさんの短冊』









***



「おいガキ。近藤さんはどこだ?」

『ガキじゃない名前だよ。おとーさんならさっきいたけど、どこかに行った』

「そうか。てかまだ短冊書いてたんだな」

『なかなか思いつかない』

「…いざ書く時は皆そうだ」

『トシの願いは?』

「近藤さんの呼び方がうつったな。俺か?俺はな…、ペンかせ名前」

『ん』

「ありがとさん」




キュッキュッと音をたてながら短冊に書いていくトシ




「出来たぜ」

『なに書いたの?』




見ると、でかく
“強くなる!!”
と書いてあった




『トシ弱いの?』

「ちげぇよ、もっとこれ以上に強くなるって事だ」

『そっか、頑張ってね』

「おう」




そういってトシも部屋を出ていった




『トシの短冊』









***



「あれ?名前まだ書いてたんですかィ」

『総悟だけ短冊ない』

「え?」




机を見ると、色んな人が書いたらしき短冊がたくさんあった。中には近藤さんのや土方さんのも…




「…この短冊みんなのですかィ?」

『うん』

「…ぺンかせペン」

『ん』

「………」




キュッキュッと音をたてながら短冊に書いていく総悟




「俺の願いは…」

『見せて?』

「嫌でィ。つるしに行きますぜ!!」

『ケチ』

「うるせぇ」

『総悟の短冊か…』




俺と名前で皆の分の短冊を笹につるし、縁側に座りながら笹を眺めた。ここに皆の願いが集まってるんだな…




『はは』

「?」

『スーパーヒーローって』

「う、うるせぇ!!」









***



『あんな時もあった…』




時が経ち、あの頃道場にいたみんなは江戸に上京し「真選組」を作った。
私も総悟もだいぶ大きくなった。トシやお父さんは仕事で忙しくなってなかなか遊んでくれない。

私は隊員とかではなく、普通に暮らしている。ただ、お父さんとお揃いの服が着たかったので、女の子用の局長服をオーダーメイドしてもらった


そんな7月7日




「名前!!お父さんも書いていいか!?」

『うん』




慌てて私の部屋に来たお父さんに、ペンと短冊を渡した




「ありがとよ〜」

『へへっ』




キュッキュッと音をたてながら短冊に書いていくお父さん




「今年はこれだな…」




またお父さんの短冊が最初









***



「名前、掃除してるか?」

『短冊に何書くか考えてる』

「そ・う・じ・は?」

『ねぇ、トシも書いてよ』

「…はぁ。ほら、貸せよ」

『はーい』

「………」




キュッキュッと音をたてながら短冊に書いていくトシ




「ほい、もう2度と書かねぇからな」

『えっ…』

「う、嘘だ嘘っ!んな悲しい顔すんな!!」

『うん』

「…じゃあな」

『ありがとう』

「いーえ」




トシはいつも愚痴りながら書くけど、必ず2番目に書いてくれる









***



「…またやってるんですかィ?」

『総悟も書いてね。総悟だけだよ』

「へいへい。貸しなせぇ」

『ほい』

「名前、あんま見るな」

『え?ごめん』

「………」




キュッキュッと音をたてながら短冊に書いていく総悟




『ねぇ見せて?』

「嫌でィ」




またそれか…。総悟って毎年見せてくれないよね




「つけに行きますぜ?」

『うん』




そういえば、なんで総悟は毎年、笹に短冊をつける作業を手伝ってくれるんだろう…。私がお父さんの娘だから?




『あ、総悟の見つけた』

「み、見んじゃねぇ!」

『ケチ』

「うるせぇ」




総悟は必ず最後に短冊を書いてくれる。









***



「はぁー、疲れたな」




お父さんは夜、笹の前で止まると、ゆっくりと縁側に座った。
私はその姿を少し遠くから見ていた。




「これ、皆の短冊か…」

『…うん、みんな書いてくれたんだよ』

「名前…」

『今年も皆に無理いって書いてもらったんだ』

「そうか。…どれどれ?お、ザキのか…」





“ラケットが欲しい”





「はは、ラケットが欲しいなんてザキらしいな」





“みんな真面目になれ”





「これ、トシの願いってか…命令じゃね?」





“名前だけのスーパーヒーロー”





「…総悟は昔から変わんねぇなぁ。(変わったところは名前に優しくなってきてるところかな…)」





“みんなとずっと一緒”

“みんなとずっと一緒”





「名前も昔から変わらねぇな…」

『お父さんだって。私はこれしか思いつかなかった』

「俺もだよ。やっぱり考える事は一緒だな、親子だ!」

『私、お父さんが近藤さんでよかった。昔からずっとそう思ってるよ』

「お父さんはその言葉が聞けて嬉しいよ!!」







――――スパンッ!



「俺もだ名前」

「俺もですぜぇ、名前のチビ助」

『あ、チビって言った』

「トシと総悟…」




突然現れた総悟とトシも、縁側に座ってきた。
みんなで短冊がたくさんついている笹を見つめてながら話してた




「名前ー、総悟がなんで一番最後に短冊を書くか知ってるか?」

「近藤さっ…!」

『知らない…。なんで?』




トシは暴れる総悟を落ち着かせようと、とりあえず両手を掴んだ。が、それでも暴れ続けている




「お前は全員の短冊が揃わないと笹につけないだろ?だから総悟が最後に書いて手伝ってんだよ、優しいだろ?」

「近藤さん…!」

「へぇ、総悟がな…」

『…ありがとう総悟』

「いや…」

『総悟、大好き』

「――っ!」




私がそう言うと、総悟の顔がみるみる真っ赤になっていくのがわかっる。




「あらっ!!この子ったらお父さんの目の前で!」

「はは、総悟でいいのかぁ?いじめられるぞ」

『トシじゃあるまいし、…ねぇ?』

「ねぇ」

「“ねぇ”じゃねぇんだよてめぇら!」

「トシ!落ち着け!」





短冊の願い
来年もこんな風に皆で短冊を飾って、縁側に座りながら話が出来たらいいな



20120707

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