額: 祝福、友情
夏未が、結婚するという話を聞いた。相手はあの円堂だという。まあ、夏未は元々円堂を好きだったし結ばれたことは非常にめでたいことである。リカはそう思いながら、真っ黒に焼けた肌にそっとファンデーションを重ねた。
そう、今日は元雷門中サッカー部のキャプテン、円堂守と元雷門中サッカー部のマネージャー、雷門夏未の結婚式である。リカはちらちらと時計を確認し結婚式まではまだ時間がたくさんあるというのに夏未のウエディングドレス姿が見たくてたまらなかった。真っ白なウエディングドレスはきっとどの女の子も生きていれば一度は着てみたいと思うものだろう。それを友達が着るというのだから楽しみで仕方のないリカは自分のドレスアップも済んでいないというのに夏未がメイクアップをしてもらっている部屋に押し掛けた。
「夏未ー!!結婚おめでとうやで!」
「ふふっ、ありがとう。随分と綺麗になったわね、リカさん」
夏未はまだウエディングドレスを着ていなかった。はあ、と溜め息を吐くリカに夏未は頭にクエスチョンマークを浮かべる。しかし、リカは、薄い化粧を施し柔く笑いかける夏未に目を奪われた。あの頃と全く変わらない気品の溢れるその仕草やあの頃は少し大人びていた見た目はすっかり年相応でとても美しいと思ったからだ。夏未はぽかんと口を開けたままのリカに、変わらないわね、と笑みをこぼした。
「夏未は、いつぐらいから円堂と付き合いだしたん?」
「リ、リカさんっ、そういう話は式の後でいいでしょう?」
「いやや!ウチは聞かしてもらうで!」
夏未の隣のソファに腰を掛けたリカを担当のメイク係の人がうるさいと言わんばかりの瞳でじいっと睨み付けた。が、リカには通用するはずもなく、どかっと、腰掛けたリカは夏未の話を聞くまで本当に退かないつもりである。数分、夏未は粘るもリカには勝てず、ぽつぽつと話し始めた。
「私と円堂くんが同じ高校へ行ったことは知ってる?」
「ええ!円堂あほやのに夏未と同じとこ行けたん!」
「いいえ、必死に勉強してもらったの。あの頃は私自身も必死に勉強していたけれど、私の言うこと一つ一つにうんうんと頷く彼が面白くってね。そこから私が円堂くんに勉強を教えていったのよ」
「てことは中三から付き合っとったん!?あんたら!」
「ち、違うわ!…その高校、サッカー部はあったのだけど、今でも円堂くんならもっと強い高校に行けた気がしてならないの。そして、円堂くんにどうしてここを受けたのって聞いたわ。そうしたらね、「夏未ー!」
がちゃっとドアが大きく音を立ててメイク担当の人が出て行ったと思えば入れ違いに円堂がいた。彼もなにも変わらない。サッカーに対する熱さ、なにを取り組むのにも一生懸命な姿には鮮明にあの頃のことを思い出せる。エイリア学園との戦いでも、リベロとなり強力なシュート技を習得したり、攻撃の起点になったりと様々な活躍をした円堂。それにはいつも練習した努力の結果が出ているとリカは円堂に憧れに近い思いを寄せていた。
「よ、リカ!来てくれてありがとな!」
「全然!ウチも久々に円堂も夏未も見れたから嬉しいわー!」
円堂と軽く会話をしたあと、夏未がどうしてここに?と、円堂に尋ねた。すると、あの頃の円堂からは想像もできない台詞が夏未に言われる。
「夏未が見たかったから」
いや、円堂らしいといえば円堂らしいのだが。夏未はというと、もう、と少し頬を染めながら嬉しそうにしている。円堂もにこりと優しい笑みを夏未に向ける。リカはその様子をにこやかに見つめていた。いつか自分も、好きな人とこんな風に結婚するのだろうか。そう思うと胸が小さく脈を打つ。
「あ、そやそや円堂」
「なんだ?」
「今からすること怒らんといてな」
「…?」
何のことだか分かっていない円堂と夏未を余所にリカはソファから立ち上がり夏未の頭を押さえて、額にキスをした。ちゅ、と優しい音が聞こえて、円堂はぽかんと口を開けていた。夏未もなにが起こったのか分からないような可愛らしい顔をしていた。リカは割と空気の読める方であるから、この空気から逃げ去るために、ドアノブに手を掛けた。
「んじゃあな!結婚、ほんまにおめでとう!」
ドアから勢いよく飛び出たリカの背中を円堂と夏未は二人して見つめていた。残された気まずい空気の中、黙って円堂は夏未の頬にキスをした。メイク担当の人が戻ってきたと同時にまた円堂は真っ赤な顔をして出て行った。夏未は、それが、リカと円堂のキスがたまらなく嬉しかった。
「ふふ、リカさんも早くいいお相手を見つけて欲しいわね」
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「そうそう!めっちゃ夏未綺麗なっとった!」
「そうですか。それはよかった」
綺麗にドレスアップされたリカの隣にはエドガーが並んでいた。
「私の中ではリカが一番綺麗ですよ」
「もう、エドガー止めてえや!照れるやんか」
リカが幸せを掴み、夏未に額にキスされるのはもう少し先の話。
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2014.1.26
5000hit企画