小説 | ナノ


▽ 此処ではないどこかで出会えていたなら少しでも二人が寄り添い合う未来はあったと思いますか


捏造有



「僕らの血族は自分たち以外の血族と結婚なんて勿論、恋をすることさえ烏滸がましい」

ヴァンプはガルシャアの顔を見つめて言った。否、睨みつけて言った。先程から女性らしくない大きな寝息を立てる彼女に安心と不安のため息を付く。勿論、眠っているからガルシャアがヴァンプの言葉に反応する事もなければ、ヴァンプの独り言が彼女の脳内に流れる事もない。
自分たちはエグゼラーがなければ簡単に切れてしまう関係として出会ってクロノストームに勝負を挑み惜しくも負けてしまった。自分たちの血族が一番だと、普通の人間に負けるわけがないと思って作り上げてきたものは一瞬にして壊された。けれど、その壊されたもののかわり、手に入ったものは素晴らしいものだった。サッカーを楽しいと思う気持ち、人と人が分かり合える素晴らしさ。酷く胸に刻まれたそれらの他にも新しい感情に気付いてしまったのだ。

「───けれど僕は、君が…」

ヴァンプはガルシャアが好きだった。彼女の全てが愛しかった。自分の気持ちに気が付いてから意識するまではほんの一瞬でエグゼラーという関係がなくなっても、ヴァンプはガルシャアと会いたいと思っていて、一方ガルシャアもヴァンプといたいとこうして遊びに来ている。それは事実である。
───けれど、自分たちが結ばれないことも事実であるのだ。
なんと悲しいことだろう、自分は彼女に愛してると告げることも、この手で抱き締めることも出来ないだなんて。まだほの暗い窓の向こうを見つめると優しい日が上っていてそれに目を細めると暖かく自分を照らし当てた。ヴァンプは太陽が苦手である。夜にしか行動出来ないヴァンプ、月を見れば狼になってしまい昼にしか行動出来ないガルシャア。それこそ不釣り合いで何度も、何度も彼女を忘れようとした。しかし、彼女が自分のところに来るのも、彼女が無防備に眠っているのも、全て自分に心を開ききっているからだとヴァンプは顔をしかめた。どうして自分は彼女の中で心を開ける良い人になってしまったんだろう。

「でも、…駄目なんだ」

彼女のその気持ちに自分では応えられないから、好きだという気持ちが大きすぎて連れて逃げてしまいたくなるから、だから今、ヴァンプはペンを手に取っている。
───きっと僕らが、ツキガミの一族でも、ヴァンパイア一族でも無ければ、普通の人間として生まれていたなら普通に恋をして普通に結婚をして、普通の子どもが出来たのだろうか。あくまで理想でしかないけれど君に似たなら大ざっぱだけど可愛らしい子になるんだろう。僕に似たら大層な自信家だろうね。僕たちの愛を分け合った愛しい愛しいその存在に現実では、触れられないことが何よりも僕の胸は痛むんだ。君も同じなら嬉しいけどとても悲しい。君がこれを読んでいるのなら僕は君のそばには居ないんだろう。けれど、どうか泣かないでほしい。君の笑顔が一番好きだ。笑顔だけじゃない、君の全部が大好きで大好きで苦しい。だから、君とは居られない。僕たちは愛し合ってはいけない存在。自分たちの血族の為に生きなければならない運命(デスティニー)なんだ。ありがとう、さようなら。大好きな、ガルシャアへ

ペンが止まった瞬間、ぼたぼたと紙に水滴が音を立てて落ちた。大きなその跡は消えずにさらさらと書き綴った手紙の文字を滲ませた。ヴァンプはその様子さえガルシャアといる瞬間と感じて涙は止まらず、手紙は文字が読めなくなった。ヴァンプは、数秒手紙を睨みつけてから読めなくなったそれをくしゃくしゃに丸めた。

「こんなのじゃだめだ。……もう一度…」

ひっくひっくとしゃくり声にガルシャアが目を覚ました。寝ぼけた目を擦りながらガルシャアは優しい笑顔を浮かべた。

「おはよ、ヴァンプ」

「お、はよ…う」

呆気に取られたヴァンプは必死に目に浮かぶ涙を擦って充血した瞳でガルシャアの元へ近付いた。ガルシャアは両手で手招きしていて、ヴァンプがガルシャアの寝ていたベッドに腰掛ける。きしぃとベッドが音を上げた。このベッドも古くなってきた。これはヴァンプの祖父がヴァンプが生まれたときに作ってくれた年代物である。ところどころ傷んだ箇所が見られるが捨てられずにいる。ヴァンプがぐるぐると頭に浮かぶ取り留めのないことを考えていると、ガルシャアの舌が涙の筋の残る頬を舐めた。

「充血してるじゃねえか、また寝不足か…?」

「…そうだよ」

呑気なガルシャアに笑顔を向けた。ガルシャアは未だ寝ぼけ眼でヴァンプを見つめてその身体を抱き寄せた。

「俺は、お前が好きだぜ」

「そんなの、僕もだよ。…でも」

ガルシャアの顔が近付いたと思った途端、唇に違和感を感じたヴァンプは目を見開き間抜けな顔でガルシャアを見つめた。

「俺らが、結ばれないか?」

「…………」

ガルシャアに台詞を取られ、黙ったまま俯く。ちらりとガルシャアを見ればあまりにもその表情が切なげなもので、自分は今までなにを悩んでいたのだろうと胸に問い掛けた。彼女にこんな表情をさせたくないから、自分は彼女を諦めようとしてたのに、その冷たさに彼女は温もりを求め苦しんでいたのか。

「違うよ、ガルシャア。君は…僕が守る」

「あのよ、正直俺は血族同士の血がどうとかよくわかんねえけど、今、お前と俺がここにいる。それで良くねえか?」

「…そうだね」

自分はなんて馬鹿なことを考えていたのか。彼女と自分が一緒に過ごしている。その事実だけで、今は十分じゃないか。ガルシャアに気付かされたその愛おしい時間は甘く二人を取り巻いてゆっくり流れている。
それに幸せそうに目を閉じて眠るガルシャアが隣にいることがどれほどの幸せかは言い表せないけれど、その時間に溢れてヴァンプも静かに目を閉じた。






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2014.01.08




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