小説 | ナノ


▽ 恋の難解連立方程式



「ああー!もう!!」

数十分、睨めっこした数学のプリントをくしゃくしゃに丸めゴミ箱目掛けて放る。見事。吸い込まれるかのようにゴミ箱へ入り込んでいったぐしゃぐしゃのそれは今までの数十分を無駄に投げ捨る行為に等しい。だが、もうそんなことは関係ないのだ。

「なんで!」

苛々を机にぶつけると机は痛いと悲鳴をあげるようにキシィ、と音を立てた。思わずごめ、と謝罪を口まで出してから飲み込み、机にまでも謝ってしまうほど自身が混乱していることに机の悲鳴で我に返った。
どうも、苛々する。
それは今日の練習の時間からだ。ギャラクシーノーツ号に乗って旅をしても勉強を怠らないようにと父から渡された数学のワークを葵に渡されたタオルで汗を拭きながら見ていると後ろにぼやけて見えたのは、戯れ遊ぶ鉄角真と西園信助の姿。なんて可愛らしい。だとか、真名部は横目でちらりと見た。常々自らの想い人には愛おしさや独占欲が強い方では有るが故、束縛してしまうことになってしまうかもしれない。でも、鉄角でいっぱいの真名部を余所に西園と楽しそうに話をして、真名部をほったらかすなんて、真名部からすればそれを苛立ちに変えるのは容易い事だ。
西園と楽しそうな鉄角に目が奪われて、その光景が焼き付いて脳裏に過ぎるその二人。ただ、嫌なこと。それは、鉄角が呼ぶ「真名部」と言う自分の名前。その言葉で全ては和らいでいく。たった、三文字。まなべ、と言う鉄角の姿を思い描くだけで真名部は生きてゆけるのだ。全ての苛々を忘れてしまって、鉄角に怒れない。鉄角のメールやイナリンクを無視できなくなる。
でも、苛々は収まらない。こうなれば直接言ってやる。携帯のディスプレイが柔く緑色を発して真名部の顔を照らす。

『話したいことがあります。電話に出てください』

数分しない間に返事がくるかと画面を睨んでいると携帯が震えた。ディスプレイは「鉄角くん」と言う文字を写し出していた。

『もしもし』

『もしもし、真名部?』

『はい』

『どうした?』

どうした?の言い方一つも可愛いと想ってしまうなんて鉄角に言ったら笑われる。真名部はそんな愛おしさを手にぎゅっと我慢するように握り締めて言葉を絞り出す。

『あの、僕、変なんです』

『なにがだよ?』

漫画とかでよくある台詞、一度見せられた、野咲の本棚に数多く並べられていた少女漫画というものに在り来たりな、そんな台詞。

『鉄角くんが井吹君といたり、西園君といたりしたら、…いやなんです』

『はあ?なんだそれ?』

鉄角が受話器越しに笑っている。からからと耳につく笑い声。でも、鉄角の声なら案外心地がいいかもしれないと思ってしまう真名部。

『真名部は、数学得意だよな?』

『え、はい、…まあ』

『じゃあ、考えてみろよ』

『はあ、…?』

意外にも鉄角の口からは期待通りの言葉を僕へ促すように言葉が聞こえる。だが、やっぱり鉄角は少し頭が弱かったようだ。

『今日のことを、俺が他のやつといるといやなんだろ?』

『…っ、』

きっと受話器の向こうの鉄角は真名部の返答を待っている。その受話器越しの息づかいに胸が高鳴る。真名部は返答を考えている最中なのに、鉄角が待っていると考えたら可愛くて愛しくて思わず真名部は吹き出してしまった。

『な、なに笑ってんだ!?』

『いや、だ、だって、鉄角く、ん…』

『失礼なやつだ!わかってるって、真名部がそういうところが抜けてて俺より馬鹿だって』

鉄角の声が低く聞こえた。どきりと心臓が血液を送る速さが速くなる。鉄角が小さく息をするのに真名部は胸が苦しくて、苦しくて。
答えを早く、頂戴。

『真名部、真名部は俺を好きなんだよ、多分』

『…』

受話器に小さく頷く。鉄角はそれが分かったかのように次の言葉を零す。

『そんで、こっから真名部知んねえと思うけど』

『はい…?』

『俺も、…お前のことが好き』

一瞬、いや鉄角の言葉から真名部がこう思っている今でも時が止まった。待て、鉄角君が…?

『待ってください、鉄角君。それって『じゃあ寝る!また明日な!』

鉄角はいそいそと電話を切った。顔に熱が集中するのが手に取るように分かる真名部は苛々を忘れかけていたのに、別の感情が邪魔したらしい。ああ、鉄角君の馬鹿!どきどきさせられっぱなしで、眠れないじゃないか。明日、飛びっきりの笑顔で告白してやろう。そうか、この鉄角の全てを独り占めしたいと思う感情は愛なのか。真名部は全て伝えるつもりである。
──鉄角の真っ赤な顔が楽しみだ。

(真名部は数学が得意なくせに、こういう単純な感情の計算はできねえんだよな)
鉄角は一人布団にくるまりながら真名部の真っ赤な顔を想像して、明日が楽しみでたまらなかった。






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(答えはつまり、君が僕を好きで、僕も君が好き)

12.31
まなてつ、のつもりです!
鉄角が攻めっぽくなりましたがまなてつと断言させてください!(笑)



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