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▽ エイプリルフール企画小説


“デートして下さい。”

まさか、俺と?
最初は耳を疑ったその声の主は如何にもエスカバを嫌っていたはずのミストレで必死になって真っ赤な顔を誤魔化そうとするミストレを横目で見ながら、特に用事もなかったしデートと称された買い物に行くことになった。
珍しいこともあるものだ、とエスカバは待ち合わせ場所に約束の時間の10分前に来ているミストレの元に駆け寄る。ミストレにまた何かを言われる、とエスカバはどきりとしながらミストレを見つめた。すると、エスカバの全身を頭の天辺から爪先まで、何度も見た後、ミストレは一言、可愛いね、と言った。幾ら馬鹿なエスカバでも今日のミストレの様子がおかしいことくらいは気がついた。いつもなら自分が遅刻してきておいて、荷物くらい持てないの?とエスカバを罵るミストレが、10分前に来て、待たされたことには何も言わず、尚もエスカバの私服を誉めるだなんて。
───有り得ない。
エスカバはショッピングモール内を歩いている間その気持ちにもやもやされっぱなしだった。ミストレに探られない程度に疑いの眼差しを向け、適当に話にも相槌を打っていると、ミストレが突然エスカバの手を握り、行きたい場所があるんだ、と呟いた。

着いた場所は薄暗い公園だった。1日、備品係である自分たちの仕事をこなすために店へ寄ったり、ミストレの洋服を文句を言われながらエスカバが選んだり、エスカバの洋服も奢ってやるとミストレが、選んで買ったりして、早々と終わっていった。今まで賑やかなショッピングモールにいたからか、よりいっそう静かな空気が漂っていた。寮暮らしの自分たちには門限などなくて、エスカバがミストレの高そうな腕時計をちらりと確認すると時計は23時30分を指していた。遅い時間だから周りに一切人はいなくて、都会から少し離れた公園だからか星もよく見えた。エスカバはその風景に目を輝かせた。ミストレはこの日のために覚えた星座を一つ一つ、エスカバに教えてやった。

「そうなのか?」

「そう。そこに見えるのがオリオンだよ。この時期なのにまだ見えるなんてね」

ミストレは淡々とエスカバに話をして、時計を確認した。そうして、にやりと目を細めて言った。

「ねえ、エスカバ?」

「なっ、なんだよ…」

近付くにつれて赤くなるその顔に、ミストレはどきりと胸を高鳴らせる。

「俺、エスカバが大好き」

「はぁぁぁあ?」

エスカバは理解できなかった。今まで、ミストレにはどれだけいやなことをされてきたか。思い返せば、冷や汗も湧き出るほどの数々の思い出。
───ちょっと待てよ。ミストレが、俺を好きってことは、今日一日の言動も説明が付く。今日は優しくして、綺麗なミストレと俺はデートをした。てことは、ミストレは今までの極悪非道なミストレを知っている俺に綺麗な表向きのミストレを出したということは、俺に気を向けて欲しいから…?
エスカバは取り留めのないことを思い浮かべながらミストレの瞳に映る馬鹿な顔をした自分に呆れるほど恥ずかしくなった。ミストレが、素直に言ってきたのだから、喜ぶべきなのだろうか。エスカバはわからなかった。

「で?返事は?」

「おおお、俺、もっ好きだぜ」

その瞬間だった。ミストレが、にやりと口角を上げて笑い出した。なにがなんだかわからないエスカバにミストレはにこりと綺麗な笑顔で時計を指差し言った。

「今日はね、エイプリルフールだよ?まだ23時55分だしね、嘘ついてもオッケー!」

「は!?てことは、今の「君ってほーんと馬鹿だねえ!」

ミストレはお腹を抱えて笑っている。エスカバはさっきまでの自分が恥ずかしくなってミストレを睨みつけた。

「てめーの方が馬鹿なんだよ!」

「すねるなすねるな、ま、笑わせてもらったよ」

ミストレは寮に帰ろうと坂道を下っていた。エスカバは苛立ちと恥ずかしさに上を向いて先ほどミストレに説明してもらった星を眺めた。綺麗だ、と見つめていると、視界の端っこに時計台が目に入る。割と視力は良い方のエスカバは目を凝らして暗いながらも時刻を確認した。

「ん…0時、12分?」

こんなに遅くなっちまったじゃねーか、と落ちている石ころに八つ当たりをするように蹴り飛ばした。そこでエスカバはぴくりとなにかに刺されたような感覚を覚える。

「0時ってことは、4月2日だよな?…あいつが帰ったのがついさっきで9分くらいだから…はあ!?」

エスカバは頭の中を整理した。ミストレが、エイプリルフールだといって嘘の告白をしてきたが、その時点ではエイプリルフールは過ぎていて、ミストレはエイプリルフールに嘘をつけなかったのだ。ただどうしてもエスカバが気になるのは本当に嘘か、真かだけだった。

「あああ!!うぜえ!クソナルシストが!」








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おまけ

「あの馬鹿、ほんとは0時過ぎてたこと気付いてたかな…、…あー、すっごい恥ずかしいことした…」

先に寮に着いていたミストレは、わざとずらしていた時計を戻しながら、バダップに話をしていた。

「リア充は爆発すればいい」



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2014.04.01

2014.06.06

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