小説 | ナノ


▽ あの頃の可愛い僕はもういないけど、君と並んで空を見ると変われる気がした




ーーー空が光るのを見た。
穏やかな濃紺から鮮やかな橙に染まってゆくのが光って見えただけのあの頃の単純な自分は遠く見えないところまで連れ去られてしまったらしい。なにやら懐かしい瞳で目覚めた午前4時。窓を開けっ放しにしていたのが目覚めの原因なのか、Tシャツ一枚とハーフパンツという自分のラフな姿に少しだけ鳥肌の立ったなめらかな肌に触れると小さく息を吐く優一。カーテンが窓からの風によりはらはらと揺れているそのリズムが心地良くて再び布団に吸い込まれそうになるのを必死に抑えて、窓を閉めようと手を伸ばした時、ふと蘇る鮮明な記憶。そこには、あの頃の空が広がっていた。
穏やかな濃紺から鮮やかな橙に染まってゆく、何とも言えない素晴らしい世界が小さな窓から大きく広がる。まるで、自分は夢の中の旅人の様に自由に羽根を広げ大地を蹴り、両手を広げて今にも飛び出せそうな心地になる。一通り魅入って時が止まったのを感じた優一は、自室を出た。出口にあったジャージを忘れずに手に取って。
朝方の空気はしんとしていて透明感のある、冬(もうだいぶと春に近いが)独特の冷気に圧倒されるも自らの足を強く踏み出した。空を見ると混ざり合う細やかな色彩にまた、目を奪われる。なんとも綺麗なこの景色を唯一無二の肉親と共有したいと、まだ深い眠りについている弟、京介を起こそうと家へまた上がる。扉を開けると自分と似通った容姿を持つ小さな相手はぐうぐうといびきをかいて眠っていた。無理に起こすのも可哀想であるが今はこの景色を共有することの方が優先だと優一は京介の自分よりも小さい体をすくい上げ外に出た。先ほどの景色とは少しだけ違い、鮮やかな橙の方が勝っているように見えた。腕の中の京介を揺すぶって、薄っすら目を開き始める自分の分身の様な姿に微笑してから、おはよう、と優しく声を掛けた。

「おはよう、兄ちゃん」

「空が、すごく綺麗なんだ」

目覚めて、自らの足で立とうとする京介を地面へゆっくり下ろして、変わりゆく果てなき空をじいっと目が乾いてしまうまで見つめた。この空の果てはどこにあるのだろうか、この空はどこまで行けば届くのだろうか。まだこの世界には謎に包まれているものばかりで、自分が世紀の発見をしたいだとかバカなことは考えないけれど、どうすればこれから先も、隣に並ぶ愛しい家族の成長を見つめ続けられるかなんてもっとバカなことを考えている自分に少し呆れる優一。すると、自分よりも小さな身長の京介が優一を星の様に純粋なキラキラとした瞳で見つめていた。

「兄ちゃん、嬉しそう」

「そうか?」

「うん。なんか、表情が‥ってうわ!」

小さく叫びを上げた京介に優一は抱きついた。否、思いっきり力を込めて抱き締めたのだ。空が優一達を見守る様に優しい蒼色に変わっていく。優一は腕の中の大人しくなった京介の頭をぽんぽんと撫で、安心させるようにそっと胸を撫で下ろすと嬉しそうに小さく声を上げる弟が愛しくてたまらなかった。たどたどしく突き放すとあどけなく優一を見つめた京介。優一は取るに足らない身長の弟を抱きかかえ、空へと近付けた。

「綺麗。‥でも、京介と見るから一段と綺麗に見えるのかもな」

突然のその言葉に京介は目を大きくさせた。そうして、照れ臭そうに笑いながら、足をぱたぱたと揺らす。その様子が幼い頃の自分の様でどこか懐かしく、どこかとっても切なかった。




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2014.04.29




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