▽ バレンタイン企画2
今日はバレンタインデー。勿論、俺は心配ない。雷門同様、月山でも何度か告白されている。だけど、俺には好きな奴がいる。そいつは普通よりもちょっと、いや、大概変わってて一筋縄ではいかない扱い辛い存在だ。
南「おい、一文字」
一「…?」
俺の好きな人、一文字は練習で噴き出た汗を襟首で拭いながらくるりと振り向いた。置かれているボトルを取ってごくりと喉を鳴らし水を飲むその姿を睨み付けて今日が何の日か思い出させようとしている俺に一文字は気付く気配もない。
南「今日は何の日だ」
一「2月14日か?特に何というのは思い浮かばないが…クラスの女子からチョコレートを押しつけられてな、困ったものだ」
南「お前…」
そりゃないだろ。今時バレンタイン知らない奴とかいんのかよ?いや、いる。目の前できょとんとした表情を浮かべるこいつだ。期待通りと言えば期待通りだが。
一「それより南沢は知っているのか?」
南「あ、たりまえだろ!」
一「そうか…。何の日なのだろうか」
南「お前ほんっと馬鹿だな」
目の前の一文字は少し俺を睨み付けながらもうーん、と頭を抱えていた。その様子が可愛らしいやら面白いやらで笑ったら一文字は目を大きくした。
一「そうか!わかったぞ。今日はバレンタインだな?月島がこの前教えてくれた。好きな奴にチョコレートをやる日なのだと」
南「知ってんのかよ…」
ならどうして俺にチョコレートをくれないんだ。俺のことが好きじゃないだとか?むしろ嫌いだとか?そんな俺をよそに一文字はロッカーの方を向いて顔を真っ赤にしていた。
一「南沢に…作っていない」
南「へ?」
一文字は俺から顔をそらすとそそくさと部室から出ようとしたから俺は反射的に腕を掴んでいた。
一「なんだ」
南「なんだじゃねえよ、今なんて言った?」
ただ、一文字から直接聞きたいだけ。意地悪したかっただけ。その赤い顔が上がるのを待っている俺の心情を読み取るかのように、一文字は口を開いた。
一「あ、その…南沢に、チョコレートを作っていないな、と思っただけだ…」
南「それって…、期待していいってことか?」
一「何の期待「一文字!!」
一文字の可愛い反応が見たいが故にこれでもかと壁際に迫り顔を近付けたのに、俺と一文字の雰囲気をぶち壊したのは月島だった。
月「今日はこの前話したバレンタインデーだ。ほら、これをやる」
月島が手渡したのはまさかのチョコレート。いくらそういうのに疎いとは言え、一文字もさすがに意味くらいわかっているだろう。そう思って、阻止しようとしたら、一文字は滅多に見せない笑顔で受け取った。
一「おお!美味しそうだな!礼を言うぞ、月島」
月「礼には及ばん」
そう言って月島は部室から爽やかに出て行った。甘いチョコの匂いがすると思ったら嬉しそうにチョコを食べる一文字がいた。この笑顔が見られるなら俺からチョコを渡してもいいのだが、やっぱり相手から欲しいというのが俺の頭から離れない。
南「え、ちょ、俺のは!?一文字、俺にチョコないのかっ?」
一「…忘れていたのは確かに我が悪いな。この後時間があるのなら一緒に駅前の甘味処に寄らぬか?」
南「当たり前だ。そうと決まったら早く行くぞ。甘いものが食べたいんだ」
一「まあそう急かすな。甘味処は逃げはせん」
一文字の着替えを待ってから、二人で甘味処に入り、バレンタインデー限定のパフェをおごってもらった(半分くらい一文字にあげたけど)。ホワイトデーにはどんなサプライズをしようか考える俺は相当一文字が好きになっているみたいだ。
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2014.02.13
南沢は苦労人が似合ってる…一文字くんに振り回されてるのが可愛いです!
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