▽ そんな台詞はきっと生涯でこの一回きりしか言わない、言えない
*両親いない設定です
この宇宙では不思議なことがたくさんある。
勿論、人類が生まれたことだってこの世の奇跡だし、その中でリュゲルとガンダレスが血が繋がった兄弟として生まれ落ちたことだってこの広大な銀河からしたらほんの小さな偶然でしかない。だが、ガンダレスはそれが嬉しくて仕方ないのだ。自分と血を分けた兄は優しく頭も良く、見た目までそこら辺の男どもよりは数段も格好いいときた(ガンダレスにとっては宇宙一だが)。ガンダレスはリュゲルの顔を見る度に格好いいと思い、この人が自分の兄であることは誇りである。
「やっぱすげーよな!リュゲル兄は」
「言うなよガンダレス、それ以上なにも言うな」
いつもの変わらない台詞に、ガンダレスは眉間にしわを寄せた。蔑ろにされている気がしないこともない。けれど、ガンダレスがリュゲルを尊敬し好きなのは事実だしリュゲルのそれは家族であるが故の扱いだとガンダレスも心の中で理解していた、言い聞かせた。
────リュゲルにとって、もしも自分がいらない存在ならば
唯一の兄であるリュゲルのそばに自分はいてはならない気がして気を重くする。そんなこと、直接聞けるわけもないし聞いてしまって自分の存在に意義をなすことになるのは嫌である。友人であるバルガはそんなことに興味が無さそうだから頼めないし、ヒラリなんてリュゲルとガンダレスに普段から飽き飽きしているのに頼んで聞いてくれるはずもない。そこで、ロダンに相談してみることに。
「ロダン、いる?」
ガンダレスはロダンの部屋の前にいた。こんこん、とノックしたらロダンの気だるそうな返事が部屋の中から聞こえた。了承を得たところでがちゃりとドアを開けた。ロダンは小さい彼サイズのソファに腰掛けてサッカー雑誌を読んでいた。ガンダレスはその雑誌をリュゲルが愛読していることを思い出して今度借りて一緒に見ようと考えていたところで、自分が今、リュゲルからの気持ちを確かめようとロダンに相談しにきたことを思い出す。
「んでえ?今度はなに?リュゲルがガンダレスのプリン食べたの?」
ガンダレスの方を一度も確認しないで雑誌を捲りながら以前一度相談されたときを思い出す。あのときは、リュゲルがガンダレスの大好きなとっておきのプリンを食べたときにリュゲルに怒ってしまったとガンダレスに泣きつかれた。このばかな兄弟のことだから晩ご飯のエビフライをリュゲルが食べたとか、リュゲルがガンダレスの服を破ったとかそんなことだとロダンは呆れ半分でガンダレスへと初めて視線を向けた。あまりにも思い詰めたガンダレスのその表情にロダンは雑誌を捲る手を止める。
「どっ、どうしたんだよ!」
「リュゲル兄は…本当に俺を必要だって思ってるのかな…?」
「はああ?」
ロダンの率直な意見。
あのリュゲルがガンダレスを必要ないだなんて思うはずもない。あれほど馬鹿騒ぎするこいつら兄弟にその、嫌いだとか言う感情があるのかさえロダンは怪しかった。けれど、ロダンの予想は少し違ってガンダレスが、あのガンダレスが寂しげな表情でうなだれているのだ。よっぽどのことがあったに違いないとロダンは少し心配になる。理由は単純。こいつら兄弟が話さなければ、練習に支障が出るからである。けれど、これは面白そうにもなりそうだとロダンはガンダレスの質問にさらりと答えた。
「んじゃあ、リュゲルと喋らなかったらいいんじゃない?そしたら向こうから喋ってくるでしょ。そこで、ガンダレスが無視すんだよ!そしたらリュゲルも絶対気付くって!」
「ちょ、ちょっと待って、俺がリュゲル兄に話しかけられても無視するの?」
「当たり前だろ」
「む、無理だよ!!リュゲル兄を無視するなんて…」
ガンダレスの瞳が他に方法はないのかと訴えるのに対してロダンはそれ以外方法はないと突き放した。ガンダレスのことだから、本当にリュゲルを無視出来るわけがないとロダンは心で思っていた。わかったよ…ありがとうと小さくなった情けない背中でガンダレスはロダンの部屋を後にした。
「リュゲル兄を無視か…」
絶対無理だよ、とベッドにくるまってぶつぶつ呟くも今を変えないとなにも変わらないとリュゲルが言っていたことを思い出す。こんなときにでもリュゲルが思い浮かんでいるガンダレスに本当にそんなことが出来るのかと不安であったが、練習の疲れを癒やして心の緊張を解すためにもガンダレスは目を閉じた。
────────次の日。
ガンダレスが目を覚ますと既に下のベッドにはリュゲルはいなかった。そのかわりに聞こえてくるのはボールを蹴る音である。昨日は殆どロダンの部屋にいて、リュゲルが風呂に入っている間に眠ってしまったガンダレスはリュゲルを練習以来見ていなかった。
(リュゲル兄の顔が早く見たいなあ…じゃなくて!)
いつものように顔を洗って練習する準備をして、足早にスタジアムへ向かった。だが、ガンダレスは忘れていた。今行けば、リュゲルと二人きりになってしまうことを。
ボールを蹴っていたリュゲルはガンダレスが来たことに気付き、にこりと笑った。
「おはようガンダレス。早いな」
「………おはよ」
出来るだけ冷たくしたガンダレスにリュゲルは勿論不審に思い近付く。顔をまじまじと近くで見つめるといつものガンダレスならばそのままリュゲルを抱き締めたりはするのだが今のガンダレスは顔を伏せてからリュゲルをすり抜けてボールを蹴ろうとボールに走っていった。無論リュゲルがその様子を見て違和感を覚えないはずもなく、すぐにリュゲルはガンダレスを追い掛けた。
「おいガンダレス!」
「………」
「聞いているのか!」
ガンダレスの双肩を掴み、自分の質問や呼び掛けに答えない彼を近くでもう一度睨み付ける。この感じはやはりガンダレスなのだが無視なんて有り得ないことである。ゆらゆらとその肩を揺らせばガンダレスはちらりと目線を合わせ焦ったように目をそらした。
「なにがあったんだ?」
「……………が悪いんだよ」
「え?」
ガンダレスが俯いたまま小さく口を開いた。リュゲルはガンダレスに顔を近付けた。ガンダレスはそれに少し後退りをするがリュゲルは一向に止める気配など一切なかった。久しぶりに目と鼻の先ほどの近さでリュゲルの顔を見ればやはり整っていると、ガンダレスは戸惑いながらも言葉を続ける。
「リュゲル兄が悪いんだよ!」
「なっ、俺がっ?」
拍子抜けといった感じにリュゲルはガンダレスの顔を見つめた。ガンダレスはちらりとリュゲルに目線をやってから話を続ける。
「リュゲル兄が…俺に冷たいから、俺、リュゲル兄に嫌われたのかなって、必要ないんじゃないかなって…だから「ばか!!!!」
リュゲルはガンダレスを力強く抱き締めた。ガンダレスは驚いていつもなら回す腕を回せず、あたふたと目を大きくした。リュゲルから抱き締めるなんていつもならば稀なことだからでガンダレスはどうしたらいいのかわからなくて、リュゲルから言われたばかにさえ言葉が出ずに口をぱくぱくと動かした。
「…俺がお前を嫌いになんてなるわけないだろう!!考えたらわかるじゃないか」
「リュゲル兄…!で、でも分からなかったから俺は今「静かにしろガンダレス」
リュゲルに言われて静かになったガンダレスはリュゲルに言われたことで心臓がうるさくなりっぱなしだった。黙っていればこの心臓の音が聞こえてしまうほどの位置にいるものだからガンダレスは更に心臓が大きくなるのがわかった。すると、ガンダレスの心臓の音だけじゃないものが聞こえて、リュゲルは更に抱き締める力を強くした。
「聞こえるだろう、ガンダレス」
「リュゲル兄…」
「一度しか言わないぞ」
リュゲルの心臓の音はガンダレスより大きくなっている。ガンダレスはそれが嬉しくて恥ずかしくて耳元でのリュゲルの台詞に耳を澄ました。
「俺は、ガンダレスが大好きだ。だから、嫌いになることも必要ないと思うことも有り得ない。だから、俺に心配させるな」
「う、うん…」
ガンダレスにとっては精一杯の返事だった。リュゲルもそれにまた力を加えた。
「リュゲル兄、痛いよ」
「嫌だ…」
「なんでだよっ?」
「……恥ずかしいからだ」
リュゲルの一言にガンダレスは回せずにいた手を背中に回した。自分よりも少しだけ大きな背に力を込めて。
「さ、さすがリュゲル兄!!恥ずかしくて俺に顔を見せたくないからって俺を抱き締めて顔を見せないなんて!」
「言うなガンダレス…今回ばかりは本当に恥ずかしい」
リュゲルはそれから数十分、ガンダレスを離さなかった。無論、ガンダレスも嫌ではないからずっとリュゲルの背中に手を回していた。ガンダレスは何気にないこのリュゲルとの時間がたまらなく愛しくて目を閉じてずっとリュゲルに抱きついていたかった。
──次の瞬間、ファラム・ディーテのメンバーが現れるまでは。
(てかいつまで抱きついてんのよあのホモ!)
(まーまー、ほっといてあげなよ)
(だってもう私たち30分は待ってるわよ!)
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2014.01.11
喧嘩ネタ書いてみたかったのですが、この兄弟仲がいいので難しいです…
ファラム・ディーテのメンバーいい子たち…
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