吸血鬼にとって、極上の血を求めるという事は美学である。
長い年月をかけて自分にとっての極上の血の持ち主を探しだし吸血する。なんていうか、見た瞬間に直感的な運命を感じるんだ。
場合によっては多国籍だったり、若しくは隣人の可能性だってある。
俺の場合は比較的早い段階でその持ち主に巡り会う事が出来たが、未だに吸血には至っていない。
それは何故か。
答えは単純明快、俺にとっての極上がシズちゃんだったからだ。

後ろから首筋に噛み付いてみたが、物理的な意味でガードの固いシズちゃんの皮膚は頑丈すぎて歯が血管まで至らなかった。
吸血鬼の歯は確かに鋭利だが、顎の力は普通の人間程度なのだ。
極上の血の一口目は首筋から、がセオリーだから他の場所を狙う気にもなれない。やるなら本気で挑みたい俺は、如何にして吸血を行うべきか脳内会議の真っ最中だった。
これでも一応シズちゃんとはお付き合いしているから吸血の許可も取ってある。
何度も挑戦しては志半ばで失敗に終わり落胆する俺を、不器用ながらも励ましてくれたりもする。
このままでは示しがつかないので、今度こそ、今度こそは成功させたい。
極上の味を堪能して、シズちゃんとの愛を更に深めたい。
そんな一心で新羅宅を訪ねた俺に、彼が渡してくれたのは小さな小瓶だった。
所謂筋弛緩剤で、力を抑えるだけでなくガードも崩してくれる優れ物だ。
俺は良い友人を持てて幸せだよ。


「と、言う訳で今回こそは上手くいく気がするんだよねぇ」
「…っにが、というわけで、だ!妙な物盛りやがって…」
「いやぁシズちゃんの項硬いからさ」

俺の家でまんまと一服盛られ、立つ事も儘ならなくなり跪いたシズちゃんの前に屈んでシャツのボタンを外し首元を露出させる。
血色が良くなった肌色に舌舐めずりをして一言。

「それじゃあ、いただきまーす」
「ぁ…おい、っ」

薬で力の抜けた項に鋭利な犬歯が食い込んでいく。
以前とは違い、皮膚の組織を突き破ってぷち、と小さな音がした。
次第に鉄の香りが鼻腔を擽り出して、歯を伝うように舌の上へと血が滲み出す。
手を添えていたシズちゃんの体が小刻みに揺れ、その僅かな動きが傷口と牙との間に血液の通り道を作り出した。
心臓に近い血管から直接飲み下す血液は驚く程に新鮮で寧ろ甘みさえあった。
その一滴一滴が活きているように濃厚で、さながら麻薬のようだ。
まだほんの少量しか飲んでいないにも関わらずくらくらと目眩がする。
多量のアルコールに侵された時の頭痛に近い悦を感じて、その感覚に恐怖すら覚えてしまった俺は一旦牙を抜いた。

「…びっくりする位美味しいよ、生きててよかった」
「そ、かよ…」
「あーちょっと、酔っちゃったかも」

熱湯を直に体内へ注ぎ込まれたように身体が熱を帯び始めて、全身が強く脈打つのを感じた。
欲情している。
甘美すぎるそれは、まるで媚薬のように作用して俺をかきたてた。
喉を濡らした筈の血液はみるみる間に渇いて、また新たな血液を渇望する。
その欲に身を任せてシズちゃんを力任せに押し倒し、首から滴る血液に舌を這わした。
貪るように吸い付けば赤紫の痣が花のように広がり、視覚的にも空いたものを満たしていく。
睡液で濡れ、血液が薄く滲みだす場所を避けつつも次から次へと吸血場所をずらしていけば、痛々しくも扇情的な所有印が周りに散らばった。

「っ、ぁ、そ…なに美味い、のか…?」
「ん…、最高」
「も、っと…飲んでも、いい…ぞ」

首ばかりをねぶられて物足りないのか、俺に組み敷かれた体を震わせながらそんな事を言い出して。
吸血という行為は吸う側にも吸われる側にも催淫作用がある、とか何とか誰かに聞いた記憶があるのを頭の片隅で思いだした。
薬に侵され血を吸われ、すっかり骨抜きになったシズちゃんのスラックスを下着ごと脱がすと腫れ上がったペニスが姿を現す。

「血吸われて勃たせちゃったの?」
「っせ…、てめぇだって勃ってんだろそれ!」
「まぁ興奮しちゃうくらい美味しいって事だよね」

首から流れ出る微量の血を手に絡め、シズちゃんのペニスを握る。
勃起したソレを強めに扱けば微かに震えて先走りを溢し始めたので、先端を口にくわえた。

「っや、ぅ、はぁっ!や、めろ…っん」
「ん…ふ、美味しいよ、シズちゃん」
「しゃ、べんな…っ、あ」

次から次へとあふれる先走りを溢さぬように舌を使いながら吸い続ける。
仄かに血液の香りが先走りに移って、飲み下す喉を止める気になれなかった。
時折濡れた尿道に鮮やかな血液を滲ませては舐める、吸い付くの繰り返し。

「ぁは、っ…シズちゃん、もっと出して?」
「んぁっ、やら、歯、立てちゃ…ひ、あぁああっ!」

尖った歯で軽く亀頭をなぞると、口内一杯に血の滲んだ精液の味が広がった。
噛み締めるように飲み込み、ペニスを伝っていったものも余さず舐めきる。
射精後の疲弊を感じさせる小さな喘ぎを聞きながら、尻まで垂れた精液を舐めとる為にシズちゃんの膝裏を担ぎ上げた。

「あ、そんな、とこっ、ひぁっ!ゃ、ぁあっ」
「勿体ないでしょ、全部舐めなきゃね」
「ふぁ、っうまく、ね…だろ、んなとこ…」
「そんな事無いよ、何度も言うけど本当に美味しい」

満遍なく舐めとると、濡れた穴が期待にヒクヒクと震えているのが見える。
舌を尖らせて差し込めばキツく絡み付いてくる内部。
口を離すと物足りなさそうな顔で見上げてきて、やたらと甘やかしたい衝動に駆られた。

「シズちゃんってば淫乱なんだから、すぐ挿れてあげるね」
「ひゃ、ぅ、あ、っ…ん」
「美味しい血を飲ませてくれたお礼に、たっくさん気持ち良くさせてあげるよ」
「あっ、ん!ま…てっ、ぅあ、いざ、ぁ」

すっかり挿入も終わりさぁ動きますよといった所でまさかの待てをかけられる。
甘やかしたい精神で一杯になっていた俺はとりあえず言われた通り動きを止め、シズちゃんの様子を窺うことにした。
床に背中を預けていたシズちゃんはなんとか上体を起こし、俺の首に深く抱き着いて来る。
そのまま引っ張られてシズちゃんは仰向けに、俺はそれに覆い被さるような体勢、シズちゃんが俺の肩を引き寄せ顔を埋めた事によって噛み痕のついた首筋が目の前に晒された。
ぼそりと小さな声でうごいていいと許可が下りたので、ゆっくりと腰を前後させ始める。
揺さぶる度に血の香りが鼻腔を擽った。

「んぁっ、あ、い、ざやっ…あ!ひぁ、いざっ」
「なぁに、シズちゃん」
「ち、のんで、あ…んっ、なめ…てぇっ」
「いいの、つらくない?」

顔は見えないけど懸命に頷いているのがわかる。
それなら遠慮なく、と腰の動きは止めないままに白い首筋に噛み付いた。
奥を突く事でシズちゃんが震えて、牙と皮膚が擦れてぐちぐちと音を立てる。
傷口が広がった事により先程よりも多く溢れる鮮血にむしゃぶりつくと、締め付けが一層強くなってお互いの限界が一気に迫って来るのがわかった。

「うぁっ、あ、ぁふ、っも、イっ、んぁ!」
「ん、っは、一緒にイこうか…」
「ぁ、あっあ、ん、ぁっ、ひぁあああっ!」

弱い部分を集中的に突き上げる事で絶頂に達したシズちゃんは俺を抱き締めたままで、身動きが取れない俺は最奥に射精した。
下腹部へ吐き出された熱にまた小さく喘いだシズちゃんはぐったりしていて、どこか朦朧としている。

「…あ、あれ、シズちゃんまさか貧血とか、…ごめん飲み過ぎた!」
「べ、つに…飲めっつったの、俺だし」
「っていうか普通に考えて飲み過ぎだよこれ…ごめんね、シズちゃん」

平均を遥かに越えた吸血量に加えて激しい運動。
貧血にならない方がおかしいというのに、俺とした事が目先の欲に夢中になって無理をさせてしまった。
シズちゃんだから意識を保っていられるけど、これが一般人だったらすぐにでも輸血しないと生命の危機に脅かされるかもしれない。
少し血の気の失せたシズちゃんの頬を撫でると、シズちゃんも俺の頭をくしゃくしゃと撫でてきた。

「臨也があんなに喜んでくれる、って思ったらそりゃ沢山飲んで欲しいだろ」
「シズちゃん…」
「お、俺もその…き、き、もち良かっ…た、から」
「あぁもうシズちゃん愛してる!」

健気過ぎるシズちゃんが愛しくてたまらない。
今度は俺が抱き着いて金色の頭をゆっくり撫でる。
微睡み始める瞼に唇を寄せて、静かにおやすみと囁いた。





遅ればせながらりん様リクエストの吸血鬼臨也と静雄の甘裏でした
甘い話は余り書いた事が無かったのでとても勉強になりましたそして拙いすみません…!甘くなってますよねこれ
吸血鬼パロは色々な設定を考えられるので非常に面白かったです
本当は臨也さんにごちそうさまと言わせたかったのですがどうしても貧血させたくてその流れで行くと臨也さんが空気を読まざるを得なくなったので失敗に終わりました無念です
以上、静雄の血が飲みたいグリコでした

この度は一万打リクエストにご参加頂き誠にありがとうございました!


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