監獄
最近また妙な事件が起きてるらしい。
詳しい事は知らないがセルティが悩んでいたのを見ると良いもんではないんだろう。
こういうのは十中八九ノミ蟲が関わってんだ。
そうと決まればさっさと殴って吐かせて殺すしかねぇよな。
と、いうわけでわざわざ奴が根城とする新宿のマンションまで来たわけだが呼び出しても来やしねぇ。
出掛けてんのか?それとも、居留守か?
居留守なんてしてやがるんだとしたらこのセキュリティぶっ壊してでも引きずり出して…
ノミ蟲野郎が出てこねぇと呼び出しボタン凹んじまうな、なんて考えていたら後ろから知らぬ女の声が飛んできた。
「あなた平和島静雄、かしら」
「あ?…そうっすけど」
「折原臨也なら今はいないわよ」
「……俺の事もあいつの事も知ってんすか」
「一応折原の秘書よ、矢霧波江。あなたの噂はよく耳にするし判りやすい格好してるからすぐわかったわ」
ノミ蟲の秘書、想像しただけでもおぞましい。
そんな職業につく位ならボールペンの芯をつめるバイトでもしてる方が何百倍もマシだ。この人どんだけ忍耐強いんだ。
でもってノミ蟲の奴居留守じゃなかったのか。
「あの、ノミ…じゃなくて、臨也どこにいるか知ってます?」
「…知らないけど、遅くなるとは言っていなかったからそのうち帰ってくるんじゃないかしら」
「そっすか」
「上がっていけば?コーヒー位出すわよ」
上がっていけば、とはノミ蟲のオフィスに、という事だろうか。
あいつと同じ部屋の空気なんて吸いたくねぇ、が無闇に探し回るよりは幾らか合理的かもしれない。
それにこの波江、とかいう人はノミ蟲なんかより全然まともに話が通じそうだ。
「でも、いいんすか」
「どうせあいつのオフィスだし、あなたが遠慮する必要は無いわよ」
「…矢霧、さんの職場壊しちまうかも」
「私は別に困らないわ」
本当に困って無さそうだったので取り敢えずついていく事にした。
もしかしてこの人、嫌々働かされてんのか?
ノミ蟲の野郎どこまで外道なんだよ。社会のために消えろ。
「適当に掛けて、コーヒーでいいかしら?」
「あ、すんません」
コーヒーの他に菓子まで出されてしまった。
申し訳ない、と思いかけてこれらの経費が全て臨也持ちである事を思い出した。
ならまぁいいか。
向かいに座った矢霧さんは一枚の写真を穴が開くほど見詰めていた。
さっきまでの淡白そうな表情とはうってかわって驚く位の穏やかな表情だった。
「あの、その写真何が写ってるんすか」
「弟よ」
「へぇ、あ、俺にも弟いるんすよ」
コーヒーを飲みながら聞けば弟の写真だそうだ。
俺にとって幽が大切なように、この人にとってもその写真の人物は大切な存在なんだろうな。
見るかと聞いてきたので是非、と返すとその写真を渡してくれた。
茶髪の少年。大人びた雰囲気だが高校生位にも…
「…ん?なんか、どっかで見た事あるような…」
「可愛いのよ、誠二っていうの」
「あぁ、弟は可愛いもんっすよね……ッ!?」
写真を返そうと軽く腰を上げた途端激しい目眩に襲われる。
力が抜け膝がガクンと落ちて目の前のテーブルに腕をついた。
「速効性のはずだけど、思っていたより遅かったわね」
「な、…っ何…だよ、」
「あら、まだ意識があるの?話に聞いた通り人間離れした体なのね」
何か言っているようだが単語が途切れ途切れにしか聞こえない、その殆んどは耳から耳へと通り抜けた。
「誠二に暴力を働いておいて謝罪の一つも無い所か覚えてもいないなんて、」
「っ、ぐ」
「許せないわ」
腕を後ろ手で縛られ、床の上に転がされる。
心臓が早鐘を打ち、警笛を鳴らすが今にも飛びそうな意識を手繰り寄せるので精一杯だった。
もう何も、聞こえない。
「誠二を傷つけるなんて万死に値する…と言いたい所だけど、貴方を勝手に殺すとなるとアイツが煩いのよね」
「殺せなかったとしても、貴方には誠二が受けた苦しみの数百倍苦痛を味わって貰うわよ」