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白い雲の隙間に一瞬


「さむむむ…寒い…寒い…無理…凍死する…」

「寒さで語彙力がいつも以上に低下してますよ、マスター」

「さらっとバカにしたの気付いてるからなー!!! バカシロウー!」



バサリ、と大きな音を立てて引きこもっていた何重もの布団を脱ぎ捨てるもすぐさま入り込んでくる寒さに、ルシティカはすぐに布団をかけ直して一人鎌倉状態を維持する
何とも不幸な事にルシティカにと用意された部屋が存在する区画の暖房施設が故障してしまったのだ
ただでさえ人理焼却という未曽有の事態に見舞われ、現状人出も足りない。この故障改善は少なくとも後数時間はかかると宣告されてから、ルシティカはこうやって布団に逃げ込み続けている


「何で私の部屋がある区画だけ狙った様に…酷い…こんなの人理焼却以上のテロだ…おのれ…」

「災難である事は確かですねぇ」

「シロウは何で寒さを微塵も感じさせないの?!」

「支給品として頂いたヒート●ックを着てますからね」

「え、うそ…」

「はい、嘘ですよ」

「おい」



いつものルシティカならここから更に天草からの子供扱いに文句の1つや2つを矢継ぎ早に捲し立てるのだが、部屋に立ちこめる冷気でその気力さえ奪われているらしい
確か己のマスターが温暖な気候に恵まれる南ヨーロッパ辺りの出身であると聞いていたので、天草的には若干な寒さに感じる室温もルシティカは大げさに反応しているのだろう



「うぅ…カイロあったかい…カイロはいい文明だよぉ…」

「復旧作業がどこまで進んでるか見てきます」

「うん、分かった…お布団から一歩も動かないでおくね」



本当にやりかねないマスターの言葉に苦笑で部屋の空気を揺らし、天草が部屋を出て行ったのがつい5分前
カルデアのスタッフに聞いた所、順調にいけば後30分程でルシティカの部屋に繋がる空調の整備に手が出せるだろうとルシティカが聞いたら飛んで喜びそうな話を仕入れ、天草は帰路へつく



「あれ?天草さん?ルシティカさんはどうされたんですか?」

「おや、マシュさん。マスターなら今は部屋に籠ってると思いますが…何か用向きでしょうか?」

「ルシティカさんの部屋の区画の暖房設備が故障したと聞いたので、温かい飲み物でもどうかと思いまして」



どうやらルシティカからジャンヌをサポートとして借りた藤丸の編成メンバーに、今日はマシュは選ばれなかった様だ
デミ・サーヴァントとして力を振るう姿ではなく、藤丸立香を先輩と慕う後輩としての姿を見るのは新鮮である
ただ単に先輩というよりはルシティカは妹属性が強すぎるだけかと失礼極まりない、本人が聞いたら噛みついてくる考えを胸に仕舞い、天草は今聞いたマシュの心配りを自分なりに解釈する



「マシュさん、すみません。少し教えていただきたい事が一つ」

「?はい、何ですか?」



部屋の扉が開く音にルシティカは微かに身じろぐ、どうやら天草とジャンヌがいない事で静かになった部屋で眠っていた様だ
2度寝を決め込もうとしていたのも止め、もぞもぞという布団内部の動きからルシティカが起きているのを知った天草の開口の方が、彼女が布団から顔を出すより僅かに早かった


「マスター」

「ん…シロウ…?どうしたの?」

「少し、外に散歩に行きませんか?」

「…さむい」

「カイロを持ってるから大丈夫ですね、さあ行きましょう」

「話聞いて?!」



問答無用で何重にも重ねていた布団を引っぺがされたルシティカが流石に哀れに見えたのか、途中で天草が己の外套を肩にかけたおかげで歩く気力は戻った様だ
どこに行くのかと聞いても答えてくれない天草、その背中が意外に大きくて広い、逞しい青年のものなんだなとぼんやり考える時間に充てているとぴたりと立ち止まる背中


「マスター、どうぞあちらに」

「あっち…?あっちって大きな窓があるだけじゃ…、…マグカップ?」

「マシュさんがマスターにと淹れてくださったんですよ、体の内から温めるといいと聞いたとかで」

「でもこれを飲むくらいなら、部屋でも良かったんじゃ?」



カルデアに来たばかりにまず最初、ルシティカの目に留まったのがこの天井まで伸びた窓ガラスだった
元々どこかの大陸の山頂にあるカルデアだ、この窓から星や空を見た機会は今までにルシティカには訪れなかった事を思い出してしまう



「少なくとも時間を感じられない部屋よりこちらの方が気晴らしになるかと思いましたが…出過ぎた真似でしたか?」

「…すぐそうやって自分の事をそう言うシロウ、嫌い」

「おや、嫌われてしまいましたか」

「でも、」



窓ガラスの縁に座りながら、両手で包み込んだマグカップの中身をそっと口に運ぶ
口いっぱいに広がる温かさとミルクとチョコレートの甘さに思わず寒さも忘れ、ルシティカは自分と視線を合わせる為に片膝をつく天草に顔を綻ばせた



「このココアはおいしいよ、ありがとうシロウ」

「…お礼を言うべきはマシュさんですよ、マスター」