茜色に滲む | ナノ
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▼ 5-2


「バトルだ!《EM シルバー・クロウ》で《天女新造 蒼穹》を攻撃!」

「黒曜」


今、自分が出来る事は遊矢と同じくAカードの力に頼る事だけ。彼と同じ様に回廊から飛び降りる初音に続き、黒曜達もその後を追いかける
飛び降りて来た主に伸ばされた手によって、初音は単身上空へと舞い踊る。ペンデュラム召喚の軌跡の様に光り輝くステンドガラス、そこに引っかかっていた一枚のカードを初音もまた視認していたのだ


「アクションマジック『転移』
相手フィールド上のカードを一枚手札へ戻す。このカードの発動に対し、フィールド上のカードは効果を発動する事はできない」

「(オッドアイズを手札に戻す可能性の方が高い、このバトルで初音先輩のモンスターを破壊できなくても、次で…!)」

「私はその効果で《時読みの魔術師》を手札へ」

「え…『転移』の効果を《時読みの魔術師》に?!」



初音の発動させたカードの効果により、星読みの魔術師の隣を陣取っていた時読みの魔術師の姿が消え失せる。戻って来た魔術師のカードを遊矢はただ呆然と握り締めた
Aカードの効果でオッドアイズを手札に戻せば、このターンのLPは軽く済んだ筈だと遊矢は混乱さえ覚える。だがその対岸の初音はこの判断が正しかった事を示さんと声を上げた


「この時を待っていたの。伏せカード、オープン。罠発動『緊急同調』
このカードはバトルフェイズ中のみ発動が可能、その効果で私はシンクロ召喚する」

「シンクロ召喚?!」

「レベル4の《天女新造 蒼穹》にレベル4の《天女兵装 瑪瑙》をチューニング
天空に聳える宮殿より招き集え、神々の娘。白銀の剣を抜き放ち、交戦せよ…シンクロ召喚、レベル8《極・天女兵装 ブリュンヒルデ》」


極・天女兵装 ブリュンヒルデ ATK 2600/DEF 1700



戦闘の中で生まれたのは黒いボディスーツに銀の装甲と八つの剣を身に纏ったモンスター、肌の色さえも透ける様に全てが白で統一されていると言っても過言ではない――初音のエースであり、全ての天女を統べる存在
ステンドガラスから溢れる光が装甲に反射し、輝きを放つブリュンヒルデを神の御使いかと見惚れていた遊矢だが、ブリュンヒルデが召喚された為に攻撃手段を失った訳ではない事に気付く


「オッドアイズがいるなら…まだ!《EMシルバー・クロウ》で《オデットトークン》を攻撃!この瞬間、フィールド上の「EM」モンスター達の攻撃力は300Pアップ!
更に《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《天女兵装 黒曜》を攻撃!そのふた色の眼で捉えた全てを焼き払え!<螺旋のストライクバースト>!!」

「っ…」

「さあ、皆さん!オッドアイズの効果をご存知でしょうか?お教えしましょう!
オッドアイズが攻撃する時、相手に与える戦闘ダメージは倍となるのです!皆さん、ご一緒に!<リアクション・フォース>!!」


初音 LP:4000→3200


「私はこれで…」

「いいえ、まだ終わらせない。伏せカード、オープン。永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動
自分の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。もう一度、一緒に戦って。《天女兵装 瑪瑙》」

「《時読みの魔術師》をペンデュラムゾーンにセッティングし、私はターンエンドとなります!」


何とか遊矢がAカードの効果によって、手札に戻された時読みの魔術師をPゾーンに戻す前にもう一枚伏せていたカードの効果で瑪瑙が蘇る。時読みの魔術師の効果の前ではこのカードさえ、使えない
初音に残されたLPにはまだ余裕はある、だが次のターンで遊矢に逆転のカードを引かれれば、負けてしまう可能性がある。やはりここまで彼を追い詰めたのなら、勝ちたいという思いは人並みに彼女にもある



「私のターン、ドロー。手札から《天女兵装 金剛》を攻撃表示で召喚」


天女兵装 金剛 ATK 1000/DEF 2200


「同じレベルのモンスターが2体…まさか、シンクロに続いて?!」

「レベル4の《天女兵装 瑪瑙》と《天女兵装 金剛》でオーバーレイ
天女達の戦場に衰えぬ繁栄は存在せず、その誇りに賛歌を歌え。更なる栄華をここに。エクシーズ召喚、ランク4《真・天女兵装 白夜》」


真・天女兵装 白夜 ATK 2400/DEF 1000


「す、すごいよ!」

「…?」



その声が聞こえて来たのはエクシーズ召喚を難なく決め、意図せず遊矢に驚きを与えた時の事だ。今の声はまだ幼い少年の声だった筈と遊矢から目を離さず、視線を少し横に動かすとそこには先程までなかった三つの影が見えた
先ず最初にエクシーズ召喚に反応を示したのはタツヤと呼ばれる少年、そしてその脇を固めるのはアユとフトシ…まだこのデュエルが始める前まで学校でいなかった、遊勝塾のいつものメンバーが興奮している様だった


「初音おねえちゃん、シンクロ召喚だけじゃなくてエクシーズ召喚もできるんだ!」

「遊矢にいちゃんのペンデュラム召喚だけじゃなくて、シンクロやエクシーズも見れるなんて…痺れるぅ〜!」

「……」



あの三人の子供達は遊矢のエンタメデュエルではなく、初音の――何の面白みもない筈のデュエルを見て興奮してくれている、楽しんでくれている――それを感じて、初音は胸に熱いものが込み上げてくるものを感じた
いつまでもその心地良い熱に身を委ねていたい所だが、今はデュエル中。いつまでも相手ーこの場合は遊矢を待たせる訳にはいかない、それは自分とデュエルしてくれている相手に失礼だ


「ここで《極・天女兵装 ブリュンヒルデ》のモンスター効果を発動する
自分の墓地から【天女】と名のついたモンスター1体をこのカードに装備し、その攻撃力を加算する事が出来る。私は墓地の《天女兵装 黒曜》をブリュンヒルデに装備する」


極・天女兵装 ブリュンヒルデ ATK 2600→4700/DEF 1700


「(このままじゃ、オッドアイズでも…!)」

「バトル。《真・天女兵装 白夜》で《EMシルバー・クロウ》を攻撃」



自分の主の命令を受けた白夜がシルバー・クロウへと迫り来る、向かってくる白夜を迎撃する手段を持たないシルバー・クロウはその表情を引き締め、白夜を睨む
そんなシルバー・クロウに跨がり、遊矢は白夜の攻撃と自分を目視する初音の視線から逃げる様に背を向ける。ここを崩されれば、後は破滅が待っているだけ。彼もまた自分の勝利の為に諦める事を知らない少年だった


「俺は、最後まで諦めたりしない!!あった、あれで何とか…!っ、何だ?!」

「――ごめんね、榊くん」

「?!あ…っ」


遊矢 LP:2400→1800



その声が耳へ吐息と共に落ちて来た時、遊矢の上空から光ー白夜の手によって、破壊されたステンドガラスの破片が彼へと降り注ぐ。破片に幾つも反射する光によって、光の雨と化した中で白夜がシルバー・クロウを葬り去る
礼拝堂の正面に鎮座するマリア像に引っかかったAカードは砕かれたステンドガラスの外側へと飛び、遊矢がマリア像へと伸ばした手は無惨にも空を切る。それに追い打ちをかける様に無慈悲な声を初音はかけた


「ここで白夜のORUを2つ使う事でモンスター効果を発動する、戦闘で相手モンスターを破壊した時、ORU1つにつき、500Pのダメージを相手へ与える」

「え?!く…っ」


遊矢 LP:1800→800


「《極・天女兵装 ブリュンヒルデ》で《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃
ブリュンヒルデのモンスター効果発動。ブリュンヒルデが攻撃する時、その戦闘ダメージに装備したモンスターの攻撃力を加算する。誇り高き魂に賜りし剣を掲げ、我らに勝利を、彼らに破滅を齎せ…<スプリーム・ディーアティ>」

「っ…うわぁぁぁぁぁ!!!」


遊矢 LP:800→0



ブリュンヒルデの腰回りに搭載されていた八つの剣が遊矢に残された壁ーオッドアイズを貫き、爆発を齎した。その衝撃に巻き込まれた遊矢は手を伸ばしながら、救われなかったマリア像へと叩き付けられ、デュエルは幕を閉じた
いたた、と叩き付けられた痛みで頭を摩る彼に伸ばされる手、今日は手を伸ばされてばかりだなと思いながら、遊矢は伸ばされた手ー初音の手を掴み、起き上がる。何を言おうと迷っていると初音は先を越す



「榊くん、君とデュエル出来て良かった」

「え?」

「あの子達を見て」

「アユやフトシ達…?それがどうかしたんですか?」



初音が指を指したのは今のデュエルの様子ではしゃぐアユとフトシ達の姿、それがどうかしたのか遊矢には分からない。何か変わった様子でもない、いつも通りの子供達の様子が広がっている
だがその風景は初音にとっては特別なものに見えた様でふるふる、と緩く首を振る。その際にシャンプーの匂いだろうか、淡く優しいー清潔な香りが鼻をくすぐり、心拍数が上昇した


「私がシンクロ召喚とエクシーズ召喚をした時、あの子達が笑ってくれたの。凄く楽しそうに
様々な召喚法を駆使する事でも、感情がない私でも誰かを楽しませる事が出来る…君みたいに笑顔を届ける事が出来るんだって教えてもらったよ」

「初音先輩…」

「ありがとう、榊くん。また…やろうね」

「…はい!今度は先輩に勝ってみせます!」

「ん…楽しみにしてる」


女は失墜の夢を見ない

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