茜色に滲む | ナノ
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▼ 5-1

何故、こんな状況になってしまったのかと遊矢は思考を巡らせる。そんな彼の前ではここー遊勝塾に遊びに来ていた初音がデュエルディスクを腕にセットし、慣れたように自身のデッキの確認作業を行っている
ここまで記せば、殆ど分かる人もいるだろうが、今から遊矢は《戦乙女の原石》と称される初音とデュエルする。そんなつもりは遊矢も、そして初音自身もなかっただろう。あの時までは



「ねえ初音!このマフィン、凄くおいしいよ!
あ、でも今度はケーキが食べてみたいなぁ、勿論手作りでね」

「ちょっと素良!今、初音は私と話してるでしょ!」



今日も遊勝塾へ遊びに来た初音が家庭科の実習で作ったというマフィンを満足そうに頬張り、甘えた声を出す素良とその反対側に陣取る柚子を見てからだ。遊矢があの、不快な胸の靄に気付いたのは
初音が甘えやすい人間だというのは彼女と出会ってから、その優しさに触れて分かった事。柚子も少ない同性の友達を得て嬉しいのは分かるが、それでもそれを許容するのは難しかった。だって初音は――


「初音先輩!」

「…?」

「俺とデュエルしてください!」

「……え?」



だって初音は自分に会いに来てくれているのに、いつまでも柚子と素良の二人に独占されるの面白くない。気がつけば、二人に腕を取られて身動きの取れない初音に歩み寄り、遊矢はデュエルを申し込んでいた
その際の横の二人の視線といったら、恐ろしいものだったな、と今でも思い出すだけで涙が溢れ出そうな遊矢も初音に見習い、自身のデッキをディスクに装填。これで彼女に挑む準備は全て整った
咄嗟に書いた挑戦状だったが、それを受けとった初音は《戦乙女の原石》と呼ばれる上級の決闘者なのだ。彼女を退屈させないデュエルを心がけなければ、初音は自分のデュエルを認めてくれた一人なのだから


「戦いの殿堂に集いし決闘者たちが!」

「モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」

「見よ!これぞ、デュエルの最強進化形!アクション…」

「「デュエル!」」


遊矢 LP:4000
初音 LP:4000


デュエルコート外で二人のデュエルを観戦しようと立ち会う柚子と素良の口上に続けられた、掛け声を合図に室内に変化が起こる、元が狭いコートと思えない程に広大な空間とこれから戦う二人を見守るステンドガラスのマリアの瞳
どうやら、今回のアクションデュエルのフィールド魔法は礼拝堂の中の様だ。雪よりは淡く、温かみのある白の中に佇む初音は動く気配を見せない。フィールドに散らばったカードを探しているのだろうか



「先攻は貰います!俺のターン!俺は《EMディスカバー・ヒッポ》を召喚!
カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

「…私のターン、ドロー。私は《天女兵装 瑪瑙》を召喚してバトル」


EMディスカバー・ヒッポ ATK 800/DEF 800
天女兵装 瑪瑙 ATK 1500/DEF 1200



召喚したディスカバー・ヒッポに跨がり、デュエル開始前の口上通りにモンスターと共にフィールド内を駆け巡る遊矢を視野に取り込みながらも、後攻の初音の場には装甲に身を包んだ女性型のモンスターが召喚される
ヒッポと共にフィールド内を駆け巡る遊矢を初音も瑪瑙に抱きかかえられながら、追跡する。瑪瑙の攻撃範囲に彼らを捉えるも、遊矢もまたここまで何の策なしにフィールドを詮索していた訳ではない事を明かしてきた


「伏せカード、オープン!罠カード『エンタメ・フラッシュ』!このカードの効果は自分フィールドに「EM」モンスターが存在する場合に発動できる
相手フィールドの表側攻撃表示モンスターは全て守備表示になり、 そのモンスターは次の相手ターンの終了時まで表示形式を変更できない、よってバトルは無効!」

「私はこれで、ターンエンド」

「俺のターン!ドロー!俺は《EMシルバー・クロウ》を召喚!」


EMシルバー・クロウ ATK 1800/DEF 700


「バトル!《EMシルバー・クロウ》で《天女兵装 瑪瑙》を攻撃!
この瞬間、《EMシルバー・クロウ》のモンスター効果で俺の場の「EM」モンスター達の攻撃力は300Pアップ!」


EMディスカバー・ヒッポ ATK 800→1100/DEF 800
EMシルバー・クロウ ATK 1800→2100/DEF 700


「アクションマジック『結界』。相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを強制終了する
…そう簡単にダメージをもらう訳にはいかないよ?」

「はは…ですよね。俺はこれでターンエンド!」



幸いにもまだ遊矢からペンデュラム召喚の気配は見られない、あの召喚方を相手にするとやはり厄介だと言う他ない。ペンデュラム召喚が来ない内にダメージを通す事が出来れば、初音にとって有利な状況を作る事が出来る



「私のターン、ドロー。私は手札から魔法カード『二重召喚』を発動。このターン、通常召喚を二回行う事が出来る
私は《天女新造 蒼穹》を召喚し、モンスター効果を発動。このカードの召喚に成功した時、自分フィールド上に《オデットトークン》を3体特殊召喚する」


天女新造 蒼穹 ATK 1600/DEF 800
オデットトークン×3 DEF 0/ATK 0



ペンデュラム召喚をした訳でもないのに一気に初音のフィールドに上限まで揃ったモンスターに遊矢は圧倒される
とは言っても、このままではヒッポとシルバー・クロウの破壊は免れないだろう。自分の手札にそれを凌げる即効魔法も場には罠カードも存在しない、そんな遊矢が頼れるのはただ一つだ


「榊くん、ありがとう」

「どういう意味ですか?それ」

「君はこんなにも私を楽しませてくれた。こんなにも心を弾ませてくれている
だからありがとう、表情がないから嘘だって思われそうだけど…本当だよ」

「い、いやそんな…」



最初は思わずその発言にむっとしてしまったものの、その言葉の真意を他ならぬ初音の口から知った遊矢は表情を一変。唇を尖らせていた表情から途端に照れた様に頬を赤らめさせ、その部分を指で掻いた
確かに初音が言う通りに彼女の表情は遊矢の様に多種多様に変化しない、否出来ない。だからこそ、初音は自分の心境を言葉にしたのだろう。同時に彼女は思う、刺激をくれる彼の全力に自分もと



「だから、私も私の全力で君に応えたい。私は《オデットトークン》二体をリリースしてアドバンス召喚する
宵闇よりも尚深き者、纏いし鎧は光も通さぬ絶対なる意志。汝が名は…《天女兵装 黒曜》」


天女兵装 黒曜 ATK 2100/DEF 1000



全力で自分を、柚子や素良達と言った、このデュエルの観客を楽しませようとデュエルを展開する遊矢に全力で応えたいと初音は思った。その思いの形が彼女の場に現れた漆黒の装甲に身を包んだ女性ー黒曜



「このままバトルフェイズに移行し、《天女兵装 蒼穹》のもう一つのモンスター効果発動
バトルフェイズ時、相手フィールド上に存在するモンスターの攻撃力を800P下げる」

「?!」


EMディスカバー・ヒッポ ATK 800→0
EMシルバー・クロウ ATK 1800→1000


「《天女兵装 黒曜》で《EMディスカバー・ヒッポ》を攻撃」

「あった…!アクションマジック『回避』!相手モンスターの攻撃を無効にする!」

「でもまだ一人いるのを忘れないで。《天女新造 蒼穹》で《EMディスカバー・ヒッポ》を攻撃」

「うわっ!あ…!」


遊矢 LP:4000→2400


「遊矢!!」


何とか攻撃は凌げたものと思われていたが、初音の指摘通りに彼女の場にはまだ2体のモンスターが存在する。その攻撃を受けたヒッポは散り、その衝撃で地上から離れた礼拝堂の回廊を走っていた遊矢の体が放り出される
観戦していた柚子の悲鳴を聞きながらも、遊矢には落下する自分をどうする事も出来ない。そんな彼を妙な感覚が襲う、落下している、というよりも空中に留まっている妙な感覚に恐る恐る目を開く。そこには体を乗り出した自分を助けようとする初音の姿


「…大丈夫?」

「あ…は、はい!ありがとうございます、初音先輩」

「気をつけて、怪我をしたら折角の楽しい時間が台無しだから
…私は《天女兵装 瑪瑙》を攻撃表示に戻し、カードを2枚伏せてターンエンド。この瞬間、《天女兵装 蒼穹》の効果は消えて、攻撃力は元に戻る」

「そうだ…お楽しみは、まだまだこれからだ!…来た!レディースエーンジェントルメーン!皆様、《戦乙女の原石》と呼ばれる初音嬢とのデュエル、お楽しみいただけているでしょうか!これから、更にショーを楽しくしてご覧にいれましょう!
私は《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!これにより、レベル2〜7のモンスターを同時に召喚可能となりました!
揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!来い!雄々しくも美しく輝く二色のまなこ!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!」


オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK 2500/DEF 2000

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