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「お、氷那、おはよう!」

「!お、はよう...アンデルセン、くん」

「ああ!今日一日も一緒に頑張ろうな!」

「え、え...」



待ち望んでいた昨日精霊を通じて出来た友人、氷那と軽く挨拶を交わすと彼女は照れくさそうに前髪で表情を隠しながら、足早に自分の席へ向かった
まだ慣れていない初々しい反応をする彼女を微笑ましく思っていると自分に向けられる教室中からの視線に気付く、そちらに振り向くとやはりクラスメイト達が今の二人の会話に注視していた



「な、何だ?皆、どうしたってんだよ」

「ヨハン!」

「うわっと?!」



視線にたじろいでいたヨハンの肩に彼の友人が腕を回される為に視線からは逃げられたものの、前のめりになってしまう結果となってしまった
一歩間違えれば、二人して転倒する所だった為に一つ文句でも言ってやろうと思ったが友人の勢いの前では掻き消されてしまった



「お前!夜久と何があったんだ?!初日は興味ないとか言いながら、呼び捨てって...抜け駆けしやがって!
というか何だ?日本語で話して、二人だけの空間作りやがってぇぇぇぇ!!!」

「ちょ、落ち着けって!」


「...何やってるのかしら」

《んー何か楽しそうだね!》

「あれのどこが楽しそうに見えるのよ、...まあ朝から元気なのは良い事よね」


後ろの席からヨハンとその友人の様子を観察していた氷那とヴァルキリアはそんな事を呟きながら、1限目の授業の為の準備を始める
昨日"友達"になったばかりであんな風に親しげに挨拶されるとは思っておらず、驚いたが流石に授業の合間は一昨日通りに過ごせるだろう

そう、そう安易に思っていたのだ



「へー氷那って字綺麗なんだな、見習いたいくらいだ!」

「あ、氷那!これ、丁度前にノート取りに行った時に一緒に貰っておいたぜ」

「一人なんて寂しいだろ?こっちで一緒に食おうぜ!」


「何あの過干渉体質、あれはもうお節介の域を脱してるわ…」

《もうっ氷那、そんな事言うのはヨハンに失礼だよ?》

「ヴァルキリア、あなた、今日1日の様子を見てなかった様ね」

《失礼なっちゃんと見てたよ!優しいじゃない、ヨハン!》


ああ、これは何を言っても無理だ、自分の相棒は彼に肩入れしすぎて自分の言葉を聞いてはくれない
頬を膨らませるヴァルキリアに分からぬ様に氷那は溜息をついた、今日1日の疲労を気化させる様に

1日の授業を終えた氷那は生徒の影がまばらなカフェテリアに移動し今日出された課題に早速取り組んでいた



(あんなにも誰かが傍にいるって疲れる事だったかしら…)



否、それは自分が一人の時間が多かったからそう思うだけだ
正直今日のヨハンの過干渉にだって昨日の件がなければ、氷那は突っぱねて距離を取れたのだ



("ともだち"…)



初めての地で出来た初めての友人、心の底でその初めてを自分で失いたくなくて、彼に強く言えなかった
それに口が天の邪鬼の氷那の内心は…


「あ、氷那!」

「…何か用かしら?アンデルセンくん、こんな時間にまで校舎にいるなんて珍しいわね」

「それは氷那にも言える事だろ?…それ、今日出た課題か?」

「ええ、そうだけれど?」

「…氷那、頼む!俺"達"に救いの手を貸してくれ!」

「…は?それに俺"達"、って…」

     ・
     ・
     ・

「お、ヨハン。帰って来た、か…って」

「助っ人を連れてきたぜ!これで万々歳だ!」

「…」

「え、え…夜久?!」

「あ、氷那は日本語の方が応答し易いから日本語で話せよ?」

「お、おお」


カフェテリアで出会ったヨハンが言うには以前、授業中に喋っていた所為で増えた課題の提出が明日だが、それに加算された課題の所為で手が回らない
しかも以前のペナルティの課題は一通り手を付けたものの空白だらけで何を言われるか分かったものじゃない…そこで課題に取り組んでいた自分に旗が立ったのだ

氷那自身は渋ったもののヴァルキリアに促されてしまい、教室に踵を返したと訳だ


「っと早速で悪いけど教えてもらって良いか?氷那」

「…ここまで来たんだもの、良いわよ。時間を割いて教えてあげるんだから早く終わらせなさいよ」

「ああ!あ、そうだ。氷那に紹介するよ、コイツ、俺の隣のアルフレッド・クォンヌな」

「気軽にアルフレッド、って呼んでくれ!」

「そう、じゃあクォンヌくんって呼ばせてもらうわ」

「夜久、俺の話聞いてたか?!」

「ははっ!」

「笑ってる暇に突っ込んでる時間があるなら、さっさとやるわよ…テキストの33ページを開いて」

「あれ、氷那って眼鏡かけてるんだっけ?」

「課題の時だけね、そんな事に気付く観察眼は課題で使いなさい」

「うぐ…」


ビシリと遮られた後は黙々とシャープペンシルが紙の上を走る音だけが教室中を支配する
自身の課題に取り組みながら、氷那は助けを求められれば手助けをし、それを受けた彼らは着々と奮闘していた課題を減らして行った


「「お…終わったぁぁぁ!!!」」

「じゃあ私は帰るわ、自分の課題も終わった事だし
今度から授業中の私語は気をつけなさいよ、席が後ろだから貴方達の声で遮られて迷惑するんだから」

「本当ごめん、今度から気をつける。ありがとな、夜久!」

「俺も突然だったのに引き受けてくれてサンキュー!
よっし、じゃあアルフレッド、俺達も帰ろう。氷那送らなきゃだしな」

「そんな事しなくていいわよ、貴方達五月蝿そうだもの」

「だめだめ!もう暗いんだからさ!氷那を夜道一人で行かせられないって、なあアルフレッド?」

「ああ!」

「男女差別って言葉を知ってるかしら?」

「「イヤ、これとそれとは意味が違うから」」


頑なに一人で帰ろうとする氷那に二人は張り付き、結局は寮までの帰り道を共にする事に
時間が時間な為に生徒の数は自分達以外に見られず、二人の声とそれに応答する彼女の声がいつもより大きく辺りを占めた



「でもさ、俺、夜久の事を誤解してたよ」

「誤解?」

「取っ付きにくくてキツい印象だからさ、嫌味ばかり言われるんじゃないかと思ってたんだ
でも今日話してみたら、嫌味…っていうか悪態付きながらも分かり易く課題を教えてくれてさ、面倒見が良い優しい奴なんだなーって改めた!」

「そうだろ?皆、氷那の事を悪く思い過ぎなんだよなー」

「何で私が弁解する訳じゃなく貴方が弁解するのよ。アンデルセンくん…」



うんうん、と納得した様に頷くヨハンにどことなくジト目で牽制する氷那に彼はん?と小首を傾げると不思議そうにしながら、口を開く



「友達の事を守るのは普通だろ?」

「そんな理屈ある訳ないでしょ」

「まーヨハンはこんな奴だから仕方ないな」

「そうみたいね、苦労してるのね…クォンヌくん」

「分かってくれるか、夜久…!」

「ちょ…どういう意味だよー!」



同情の目で見る氷那の両手をガシッと掴むアルフレッドの言葉に心外だと言わんばかりに叫ぶヨハンを横目に氷那はふと微笑んでいる事に気付く



("ともだち"がいるだけで…こんなにも嬉しくて、勝手に頬が緩んでしまうもの、なのね)



少しずつ自分の心を守ろうとする殻が破れて行く事に不思議と不快感はなかった



境界、越えてもいいですか






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