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第一印象は「非の打ち所がない美少女」



「夜久って日本の何処から来たんだ?」

「血液型は?」

「誕生日とか教えてくれよ」

「好きなものは?」

「んじゃその逆に嫌いなものとかあるか?」

「…ねえ」

『?』

「そんな無駄話をする暇があったら、次の授業の準備か予習でもしたらどうかしら?
初対面の貴方達に私が自分の事を曝け出すなんて期待、持たない方が良いわよ」



…第二印象は「嘲笑が似合う冷酷少女」

HRで晴れてクラスの仲間―華となった夜久氷那を迎えて一日の授業は早くも3限目に突入していた
視界の端でこの教室の最後尾にして窓際という特等席に座り、教師が授業進行と共に埋まっていくホワイトボードの内容を彼女がノートに書き記していくのをヨハンは見ていた



「朝にこっちが話振った時は食いつかなかったのにやっぱり気になるのか?」

「そんなんじゃないって」

「誤摩化さないでいいって!あんな美少女がクラスにいたらそりゃデュエルバカのお前でも気になるよな〜
まあ実際の中身を開いてビックリしたけどな、迂闊に近づいていけないぜありゃ」



教師の死角で朝方に氷那という編入生の噂を持って来た友人の会話にヨハンは1限目終了の彼女の周辺を思い出す
編入生という宿命でクラスメイト達は授業終了と同時に彼女に我先にと駆け込み、手当り次第に質問をぶつけていった

普通ならば、そこで下手な返答をしてクラスからの孤立を防ぐ為に当たり障りのない返答を選ぶだろうが…氷那は違った、寧ろHRで聞いたあの完璧な印象を破壊して行った



(そんな無駄な話をする暇があったら…か、女の子、そして一人の日本人なのに寂しくないのか…)



「あーでも残念だ、あんな性格じゃなかったら是非ともお近付きになるのにな」

「一概に夜久が悪いって訳でもないだろ?編入してきて疲れてただろうし…それを気遣えなかった俺達にも悪い所はあるさ」

「ん?何だ、ヨハン。お前やけに夜久の肩を持つんだな、本当にデュエルバカのお前に春が来たか…?!」

「だから違うっての」


そう、そんな感情から氷那のフォローをしている訳ではない
HRでの自己紹介を終え、何もなくすれ違っていれば、ただのクラスメイトとして彼女を見なしていたのだから

彼女はそのHR終了後に自分の肩に現れたルビーを唯一感知出来た、それはすなわち夜久氷那は自分と同じ視野を持った仲間ということ


「…何だよ、何見てんだよ」

「誤摩化さなくたって良いて!友人として嬉しいよ、お前もいっちょまえの男だって知れてさ」

「あのなぁ…」

「そこ!何を話してる、またお前達か、アンデルセン!」

「しまった…!」

「全くこれで何度目だと…よーし分かった、お前達は言っても分からないようだからこうしよう。今日の課題、お前達だけ罰として倍にして渡す!」

「げぇ?!俺、ただコイツに話しかけられてただけなのに酷いぜ!」

「答える方にも責任はある!」


そりゃないぜ、と弁解も認められずに肩を落とすヨハンを見て、クラスメイト達は授業中にも関わらずに笑い声をそこかしこから上げるもので居たたまれなくなる
一蓮托生だなと笑う友人を恨めしそうに睨む彼の姿を後方から氷那が見ていた事にはついぞとしてヨハンは気付かずにその日を終えた



「ったく…昨日は酷い目にあったぜ…」



くぁと睡眠不足で現れる欠伸を押し殺す事なく浮かべるヨハンはただでさえ多かった課題が深夜に食い込み、睡眠時間を削られてしまったのだ
いつもならまだ寝ていても良い時間に学校に登校してきたのは二度寝を起こしてしまうのを避ける為だ、人気がまばらな校舎は何処か新鮮な心持ちを沸騰させる



「教室行ったらどうすっかなぁ、デッキ編集は最近やったばっかだし…授業始まるまで寝ておくか?」

《ルビ?》

「授業始まりそうになったら起こしてくれるか?ルビー」

《ルビビ!》

「ははっそっか、ルビーは頼りになるな」



自分の言葉に任せろと言わんばかりに愛らしい声を上げたルビーと会話をするヨハンは人がまばらだからと注意を散漫させてしまっていて、曲がり角から現れる漆黒に気付けなかった
あ、と思った時にはすでに遅く、漆黒色の何かとぶつかり、自分はその場でよろけただけで済んだがぶつかってきた方は倒れ込んでしまった様だ



「わ、悪い!怪我してない、か……って…」

「っ…」

「夜久…?」

「?あ…」



名字に反応したのか床に大量のノートをばらまき、尻餅をつき痛みに眉を潜めていた氷那はヨハンの方を見上げ、目を丸くした
その満月の様な瞳に映るヨハンの表情、瞳も彼女と同じ様に丸く形を変えていたのだった



なんてタイミング、せっかくチャンス






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