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「ヨハン、聞いたか?!」

「ん?何を?あ、今度のデュエル実習の事か?酷いよなぁ、今月一回だけだなんて!」

「違ぇよ!何と!今日うちのクラスに編入生が来るんだってよ!」

「へぇ編入生!珍しいな、こんな時期に…」

「だろ?しかもあの"魔女"なんだってさ」

「"魔女"?何だそれ」



朝、教室に登校してきたヨハンは仲が良い友人から飛び出たその言葉に訝しげに眉を寄せ、首を傾げる
そんな彼の反応にその友人は知らないのか?!と大袈裟に声を上げた



「その編入生の異名だよ!何でもいくつもの大会に出場して決勝まで行ってるって言うのに絶対に決勝で辞退するんだってよ」

「決勝まで行ける程の実力を持ってるのに辞退?何か勿体ないな」

「だろ?んで"魔女"っていうのは編入生のデッキが魔法使い族デッキなのもあるらしいけど、何より…」

「何より?」

「お前達、席に座れー」

「おっとこの話はここまでみたいだな」

「気になる言葉だけ残してお預けって酷いぜ!」


そうは言っても教師が来てしまっては話を続ける事も出来ないのでちぇ、と不貞腐れるとヨハンは教室を見る
自分が友人に聞いた様に何処かで"魔女"と呼ばれる編入生の噂を聞いたのだろう、この場の男子生徒達は何処かそわそわと落ち着きがない様に見えた

この教室では女子生徒という華は貴重、尚かつ思春期の男児ならば誰もが見た事のない編入生に期待を持つのは仕方ないのだろう



(そんなに女子って魅力的か?俺はデュエルの方がよっぽど魅力的だと思うんだけどな…)



自身のデッキである宝玉獣達を「家族」と評する程にデュエルを愛するヨハンにとってはこのクラスの落ち着きのなさは異常でもあった
否、女子よりもデュエルを取る自分の方が周囲にとっては異常なのだろう、そう結論づくと話を聞いていなかった自分を知らずに語る目の前の教師に意識を向けた



「今日は知っている者が過半数と思うが編入生が来ている、"夜久"入れ」



…その人影に今までの考えは飲み込まれ、息を呑む

第一印象は夜空を背負っているという詩的なもの、室内に現れたその少女の長い髪は夜空を吸い込んだかの様な漆黒、サラサラと流れる髪の流れは何処か墨汁が流れているかの様に滑らかだ
それだけでも目を引くのに十分だというのに少女の服装は制服の上着以外を黒で統一しているもので唯一見える手首の白く輝く華奢な手首とボディラインを一層細く際立たせていた



「静かに!」



噂の中心である少女が現れた事により室内は一層ざわめき立ち、それを教師が一喝。その声にヨハンも自分が目の前の少女に意識を奪われていた事を知る
静寂に巻き戻された教室を確認し教師はお決まりの台詞を口にする



「日本から我が校に編入して来た夜久氷那君だ」



夜久君、何か一言頼む、と言われると教室中は彼女の第一声を待ち望み、デュエル中とは違う緊張感が漂う



「…」

「?夜久君、何か一言を…」

「!あ、はい…初めまして、ご紹介に預かりました 夜久氷那です
いたらない所が多々あり、ご迷惑をかける事があると思いますが…皆さんと勉学を共にする事を嬉しく思います」



不自然な感覚を置き、二度目の問いかけに漸く少女は我に帰り第一声をそう発声した
落ち着いた声色の中に確かな自信と芯を持ったその声に誰からと言うまでなく拍手が送られた、申し分のない初日にヨハンは一人違和感を置く



(何かカンペを読んでるみたいに完璧すぎて、逆に壁を感じるな…)


「じゃあ夜久君、空いている席に座ってくれ」

「はい」



靴のヒール音を鳴らしながら教壇から離れ、席へと移動する氷那を生徒達は食い入る様に見送る
ヨハンと氷那の距離は後5m、4m、3m、2m…



《ルビビ?》

「っ?!」

「!」



何事もなくすれ違おうとした瞬間、ヨハンの肩に現れたルビー・カーバンクルの鳴き声に反応した様に氷那はヨハンへと振り返り、二つの驚きで開かれた瞳が交わる



(…髪の色が夜なら目は月みたいだ)



驚いた様に見開かれる瞳は夜空にて世界を淡く照らし上げる満月の如く、彼女はまるで夜をが実体化した様な有り様にも思えた
だが今はそこを観点として捉えるべきではない、確かに彼女は…



(偶然か…?嫌、でも…ちゃんとルビーを見てる…!)



《ルビィ?》

「…もしかして君、「夜久君、早く座りなさい」」

「!すいません…」



教師に催促され、我に帰った氷那は弾かれた様に足早に段々に並べられた教卓の一番最後尾の窓際に座ったのを横目で確認した



(確かに今、ルビーを見てた、よな…まさか俺と同じ精霊を見る事が出来る子が編入生だなんて…!)



もしかしたら彼女にも精霊がいるかもしれない、自分と同じ視界を捉える事が出来ているかもしれない…そんな淡い期待に心が踊り、自然と口の端が上がり笑みが出来上がる
この一瞬の出来事がヨハンに夜久氷那という存在にデュエル以上の興味を沸かせたのだった



たったひとつのれる方法






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