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11-2

だがモニカが強く思うのと同時に氷那も強く思う、"折角得た友達という居場所を奪わせない"と、だからこそ彼女も全力でぶつかり合う
氷那の場にいた霊滅術師 カイクウが消え去ると同時にその場所に現れたのは刺す様な冷気を纏い、女王の威厳を宿した女性、彼女が現れた事でハーピィ・クィーンの動きは凍結してしまった


「どうかしら、これでも攻撃する?」

「…っターンエンドしかないじゃないですかっ!」

「言い忘れてたわ、「ディメンション・マジック」のもう一つの効果で貴方の場の『ハーピィ・クィーン』を破壊させて貰うわ」

「っ!…見かけによらず、しぶといですね…先輩、日本人ってもっと謙虚なんじゃないんですか?」

「日本人を一括りにされても困るわね。それにしぶとさなら…貴女には負けると思うけれど?」

「うぅ…こんな冷徹な人のどこがヨハン先輩は良いの…?カードを2枚伏せてターンエンドです」

「悪かったわね、冷徹で…私のターン、ドロー」


憎まれ口には憎まれ口で返した氷那はデッキからカードを引き抜き、そのカードと手札を確認する
確認作業の時間は何処か長い、それは今まで罠を伏せてこなかったモニカがここに来て伏せてきたからだろう、ここに来て初めての伏せカードに警戒が高くなるのも無理はない


「あの伏せカード、何かあるな…」

「ああ、だから氷那も慎重になってるみたいだ」


(わたしが伏せたカードは罠カード「風霊術−「雅」」、自分の場上に存在する風属性モンスター1体をリリースして、相手場上に存在するカード1枚を持ち主のデッキの一番下に戻す効果…
先輩の場には『氷の女王』、まずはこれを先輩のデッキに戻してもう一枚伏せてある「ヒステリック・パーティー」を発動して、墓地のハーピィ・レディ達をありったけ特殊召喚出来れば…!)



「手札を一枚捨てて…『THE トリッキー』を特殊召喚」

「え…っ?」


THE トリッキー ATK 2000/DEF 1200


「氷那の勝ちだな」

「は?ヨハン、何でお前そんな事言えるんだよ」

「見てみろよ、あの氷那の顔…一回戦った事あるから分かるんだ
氷那があんな表情するのは…自分の勝ちを確信した時だってな」


苦笑するヨハンの脳裏には彼女とのデュエルで氷那の勝利が確信した時の事が思い浮かばれていた
自分とてあそこまで追い詰めた氷那を逃がすまい、と罠を仕掛けていたのにも関わらず…彼女はいとも簡単に抜けてしまった、絶世の微笑を讃えて



「行くわよ、場の『THE トリッキー』を生け贄に…『ブリザード・プリンセス』を召喚するわ」


ブリザード・プリンセス ATK 2800/DEF 2100



氷の女王の隣に現れたのは彼女と同じく冷気を纏う幼い少女、その手には若干強力すぎる氷で出来た鈍器付きのロッドを携えている
幼さ故に現れる強気な表情を意地しながらプリンセスは自身を呼び出した氷那へと面倒臭そうに振り返ってきた


《ちょっと氷那、こんな相手に何手間取ってるのさ、おかげであたしの出番が増えちゃって…だるっ》

「今日も通常運行で何よりだわ、プリンセス」

《ブリザード…?何かしら?マスターに大してのその口の利き方は、そして今「だるい」という言葉が聞こえた気がしたけれど…》

《や、やだなぁ!そんな訳ないじゃんっ》

「良いのよ、女王。気にしないで」



氷の女王にたしなめられるプリンセスを庇う氷那と対峙するモニカが突如として現れた上級モンスターに慌てふため始め出した



「え…な、何で?!どうしてレベル8のモンスターが1体のコストだけで…!」

「あら、このカードは魔法使い族モンスター1体のリリースで生け贄召喚出来るのよ
そしてモンスター効果でこのカードが召喚に成功したターン、相手は魔法・罠を発動することはできない」

《フンッ》

「そ、そんなっ!」


召喚されたプリンセスが纏っていた冷気はモニカが伏せたカードが起き上がる事を許さない
これでは自身が確信していた勝利への道は閉ざされたも同然、俗に言う為す術がなくなった瞬間である、それでも全力で行くと宣言した氷那は手を緩めなかった



「バトルよ、『ブリザード・プリンセス』で『ハーピィ・レディ・SB』を攻撃」

「っ…!」


モニカ―LP:1300


「これで…貴女を守るものは全て取り除いたわね、『氷の女王』でプレイヤーにダイレクトアタック、コールド・ブリザード!」

「嫌ぁぁっ!」


モニカ―LP:0



悲痛な叫びを上げ、氷の女王の攻撃をその身で受けたモニカはその場に崩れ落ちるとソリッドビジョンは役目を終え、消え失せた


「そんな…負け、た…の…?」

「私の勝ち、ね」

「先輩の言う事、聞きます…それがこのデュエルの約束ですから」

「あら…本当にそれで良いのかしら?」

「っ…」


嫌に決まっていた、もしも自分が氷那に望んだ様な…例えば今後一切ヨハンに近づく事を禁じられては自分は恋に恋するしかなくなってしまう
それで良いのかという問いかけにモニカは唇を噛み、顔を俯かせた、嫌だとは言いたい、だがここに足を運び、デュエルをする約束を守ってくれた氷那とは対照的になってしまうからだ

黙りこくってしまったモニカにはぁ、と溜息をつくと氷那は彼女と目線を同じくするべく片膝をつく


「ヒルスヴァレーさん、私、貴女にヨハンくんの行動を制限する事に苦言を呈したわよね」

「は、い」

「そう言った私自身、自分の言動で誰かの行動を制限したり、とやかく言いたくないの。自由を取り上げて後から恨まれたらたまったものじゃないもの
だから私はこのデュエルに勝ちはしたけれど、特段として貴女に"ヨハンくんと会うな"とか"ヨハンくんと会話するな"とは言わないわ、恋するのは自由だし恋する女の子は素敵だと聞くし」

「え…?!」


思わぬ言葉にモニカは知らず知らずの内に溜まっていた涙を浮かべ、氷那をばっと見上げた
だがいつの間にか氷那は腰を上げ、立ち上がるなり顔を横に背け、髪を手で払いながらもはやお得意のつっけんどんな言葉を放ち始めた



「…勘違いしないでくれるかしら?貴女のハーピィとヒルスヴァレーさんのデュエルセンスをリスペクトしたとか、恋する素晴らしさを貴女を見てて教えてもらったからこう言ってる訳じゃないわ
ただ後で自分の言葉が恨み言とかで帰ってくるのが嫌だっただけ、そう、それだけよ!だから今後は私にずるい、とか見当違いの事を…」

「――お姉様」

「…は?」



ぽつり、と呟かれた言葉は小さかったものの確かに氷那の耳に届く、今彼女は何て言った?
呆然と現実を受け入れようとせずにいた所、がしり、と手を掴まれ、驚いた拍子に見たそこにはきらきらと瞳を輝かせるモニカの笑顔が


「夜久先輩…いえ!これからはお姉様と呼ばせてもらっても?!」

「な…え、い、嫌に決まってるでしょ!何を言い出すのよ…」

「わたし、勘違いしてました…お姉様は冷たくて、冷酷で異名通りに魔女みたいにヨハン先輩をたぶらかしてる、って」

《酷い言われ様だね、氷那》

「でもデュエルをして、そして!今の言葉でそれが全部ただの噂だって気付きました!
お姉様はとっても情熱的で思いやりがあって、他人を尊重する…でもそれをなかなか表に出せないツンデレな性格の持ち主なんだって!」

「誰がツンデレよ、誰が」


噂が誤解だと気付いてくれた事に喜ぶべきだろうが、それよりも厄介な事が起こってしまった事で氷那はかぁ、と顔を赤くし声を荒げてしまう
そんな彼女にめげもせずに最初会った時から変わらない猪突猛進っぷりでモニカは氷那へと畳み掛ける


「わたし…ヨハン先輩の事からは身を引きます、だから…だからお姉様!一生付いていかせて下さい!」

「はぁ?!」


「んあ?何かヒルスヴァレーと氷那、仲良くなったみたいだな?いやーやっぱりデュエルって人と人を結ぶ架け橋なんだな!」

「…おう喜べ。お前に向いていた好意は夜久にぶっ飛んじまったみたいだからよ、悪化してな
…何でお前ばっかモテるんだよ?!こんな天然方向音痴より何でオレはモテないんだよー!」

「いった!何で殴んだよ、アルフレッド!」


「お姉様、大好きですー!どこまでも付いていきますよぉぉ!」

「ついて来ないで!というかそんな簡単にヨハンくんを諦めきれるなら、私がデュエルする意味なかったじゃない…っ」


  ・
  ・
  ・


「お姉様!ついにお姉様のファンクラブを作りましたよ!」

「ファンクラ…?!」

「ファンクラブ会長はわたし!そして…」

「喜べ、夜久、オレとヨハンもこのクラブに入ったぜ!」

「氷那が本当はどんな奴なのか皆に分かって貰う為にもこれに入った方がいいって言われたら入らざるを得ないよな!」

「…そう、あなた達…そんなに私を…怒らせたいのね…?」

《氷那、落ち着いてー!》



今にも鞄に入れてあった小説の角で彼らの頭を叩こうとする氷那が微笑んでいたという


あのあの瞬間、感じていたのは






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