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8-1

放課後、全ての授業を終え、校舎を出たヨハンは今朝出会った氷那との約束を果たす為に隣接して存在するデュエル場の入口で深く呼吸をする
どんな強敵とのデュエルも彼は毎度楽しみに、足早に辿り着いていたがどういう訳か彼女とのデュエルはいつもより心臓の鼓動が早く落ち着かない



《ルビッ》

「ん?ああ。分かってるさ、ルビィ。行こう!」



肩に現れた相棒に背を押され、ヨハンは自分の体と心を蝕んでいた緊張を振りほどくと建物内へと足を踏み入れた
――もう引き返せない、そんな彼の前に背を向ける立ち位置に夜色の髪と共に氷那はいた、いつも通りの彼女の風貌と唯一増えたのは…細い腕に不釣り合いなデュエルディスク


「氷那!待ったか〜?」

「いいえ、そんなに。デッキの最終確認に丁度良い割合の時間だったわ
授業が終わったのは同時なのに遅かったのね」

「イヤー…この後に氷那とデュエル出来るんだって思ったらさ、ガラにもなく緊張しちまって…」

「…その緊張であなたの本来の力が出せないなんて事にならない事を祈ってるわ、アンデルセンくん」

「ああ、そこは大丈夫だ、俺が全力じゃないと氷那も全力になれないしな!」

「あなたらしい考えね、嫌いじゃないわ」


嘲笑う事なくヨハンの考えを受け入れた氷那と感覚を開き、ヨハンは対峙する
お互いに言葉の合図はいらない、ここでやるべき事は、自分達が望んでいる事は熟知しているのだから



「「デュエル!」」



今、彼女達は親しい友人へ向けられる視線から目の前の相手への戦いに望む決闘者の瞳を開いた
同時にデュエルディスクを展開し、慣れた手付きで装填されたデッキから5枚のカードを手札として持つ


氷那―LP:4000
ヨハン―LP:4000


「先攻は俺が貰うぜ!ドロー!出ろ!『宝玉獣 サファイア・ペガサス』!」


宝玉獣 サファイア・ペガサス ATK 1800/DEF 1200


目の前で相対する氷那―《氷鎌の魔女》と呼ばれる彼女の初戦が自分であり、尚かつ彼女に直々に選ばれたからだろう、未知の戦いに先程までの緊張感はどこへやら。彼は楽しさが先に出る
サファイアの角を青く輝かせ、角と同じ宝石を宿す翼を持つ白馬がヨハンの場に現れ、氷那を正面から見つめる


「モンスター効果発動!このカードが…」

「『このカードが通常・反転・特殊召喚に成功した時、
自分の手札またはデッキもしくは墓地から『宝玉獣』と名の着くモンスター1体を永続魔法扱いとして自分の魔法および罠カードゾーンに表側表示で置く事が出来る』」

「なんで…」

「効果を発動しないのかしら?」

「あ、ああ、そうだったな!俺は『宝玉獣 アメジスト・キャット』を選んでセット、ターン終了だ」



彼女は自分とデュエルをした事がないと言うのに一字一句間違えず、所有者のヨハンよりも先にその効果を証言したもので彼は目を見開き、一瞬の驚きが目の前のデュエルよりも覆い隠した
こう言っては失礼だと思うもののこの言葉しか表現する方法がないから思う、…得体の知れない何かが自分の前で動き出していた、と



「私のターン、ドロー…私はモンスターをセットしてターンエンドよ」


(守備に徹する気か…?)



まるで今の氷那はただこちらの行動に反射するだけの機械の様だ、凍える様な冷静さは確かに肩が震えた



「ドロー!『宝玉獣 アンバー・マンモス』を攻撃表示で召喚!」


宝玉獣 アンバー・マンモス ATK 1700/DEF 1600


「『自分フィールド上に表側表示で存在する「宝玉獣」と名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時、このカードに攻撃対象を変更する事が出来る』
アタッカーであるサファイア・ペガサスを守る為かしら」

「ああ!」



額に琥珀の名を持つ宝石を埋め込んだマンモスが現れるもやはり氷那は同じ様にその効果を一字一句間違えずに読み上げると優しいのね、と柔らかい声色でヨハンの行動を賞賛するのだった



「行くぜ!『アンバー・マンモス』で攻撃!」



アンバー・マンモスがその巨大な前足を持ち上げ、氷那の場にセットされたカードを破壊せんとする
だが…その場にセットされていたモンスターはアンバー・マンモスの攻撃力よりも勝る守備力を持つ『魔導騎士 ディフェンダー』が姿を現す


魔導騎士 ディフェンダー ATK 1600/DEF 2000



「うわっと!」


ヨハン―LP:3700


「はっはぁ…なるほど、そう来たか〜!ターン終了だ」

「私のターンね、ドロー。」



このデュエルでの初ダメージを受けたヨハンの言葉にもやはり氷那は必要以上に反応せず、淡々とした動きでデッキからカードを1枚引き、場と手札を確認する
場には守備を頼んだ『魔導騎士 ディフェンダー』、この守備力を上回る攻撃力のモンスターがすぐには現れない、ならば今、自分に必要なものは…


「『ものマネ幻想師』を攻撃表示で召喚、同時にモンスター効果を発動するわ
このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する、選択したモンスターの元々の攻撃力と守備力を得らせて貰うわ
私は『宝玉獣 サファイア・ペガサス』を選択してバトルフェイズに移行する、『ものマネ幻想師』で『宝玉獣 アンバー・マンモス』を攻撃」

「〜っ」


ものマネ幻想師 ATK 0→1800/DEF 0→1200
ヨハン―LP:3600


「これくらい軽い軽い!」

「軽はずみな言動は止めた方が良いんじゃないかしら、カードを1枚伏せてターンエンド」

「ドロー!よし、手札から魔法カード「宝玉の契約」を発動するぜ!」

「『自分の魔法・罠カードゾーンに存在する「宝玉獣」と名の着いたカード1枚を選択して特殊召喚する』、ね…」

「俺は『宝玉獣 アメジスト・キャット』を特殊召喚!そして『宝玉獣 トパーズ・タイガー』を召喚!」


宝玉獣 アメジスト・キャット ATK 1200/DEF 400
宝玉獣 トパーズ・タイガー ATK 1600/DEF 1000


「バトルだ!『トパーズ・タイガー』で『ものマネ幻想師』を攻撃!トパーズ・バイト!この瞬間、モンスター効果で『トパーズ・タイガー』の攻撃力は2000となるぜ
まだまだ!攻撃力を半分にして『アメジスト・キャット』でダイレクトアタック!アメジスト・ネイル!」

「きゃ…」


彼の目の前に置かれていた紫色の宝玉が割れ、そこから現れた猫型のモンスターが自分目掛けて飛びかかって来るもので氷那はディスクを盾に自身を守る
勿論物理ダメージというものはない、だが先手を取っていた彼女のLPはアメジストキャットの手により削られたのだった


氷那―LP:3200


「カードを伏せてターンエンドだ、はぁ…やっと氷那のLP減らせたぜ」



自分と彼女のLPの差が狭まって来た事で漸く彼女とのデュエルを楽しめる事が出来ている事に気付き、ヨハンはにこりと笑みを浮かべる
その笑みを攻撃から庇う為に眼前に出していたディスクから垣間見た氷那が何を感じたかは垣間見えない


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