ものごころついたときにはもう手遅れで、天上天下唯我独尊な俺様野郎がわたしのなかに居座っていた。 「譲二、今日何食べたい?」 「なんでも」 「それが1番困るんだけど」 「困ってる顔ってそそられるよね」 「日本語喋ってくれる」 机の上に雑に置かれたキーを譲二に投げて鞄を持つ。むかつくことに恰好良く受け取ったのを確認してアトリエからの長い階段を登った。 「そういえばモデル見つかったんだって?」 オープンカーの助手席、見慣れた街並を網膜に映す。赤信号に捕まって何気なく問うて数秒。 「うん」 嬉しさ雑じりの声に驚いて振り返り、絶句。譲二のこんな顔はいつ振りだっただろうか。吸い込まれそうな蒼い瞳に、わたしはまるで映っていない。 「譲、二」 「なに?」 「‥‥今日は、オムライスね」 「いいね」 自覚なんて、ないんでしょう。 小さい頃から一緒だった。だから譲二に1番近いのはわたしだったし、譲二に1番必要とされていたのもわたしだった。でも、だからこそ、譲二はわたしの「女」の部分を嫌った。当たり前と言えば当たり前だったのかな、小等部でもうすでに、あいつにとってわたしは家族以外の何者でもなかった。手遅れ。わたしにどうしろっていうの。 たま、に。譲二に弄ばれてる女の子たちがうらやましいと思うことがある。いつだって譲二は彼女たちよりわたしを優先してくれたけど、でも。 「冷蔵庫に卵あったかな」 「この前買ってただろ」 「‥そうだっけ」 「きみの物忘れはどうにかならないの?」 「‥あは、ごめん」 「うそうそジョーダ、ン‥‥なんで泣くの」 「泣、いてない、砂が目に入っただけ」 「俺、何かした?」 「だから、違うって、言ってるの、に‥!」 路肩に車を寄せて親指で涙を拭われる。馬鹿、馬鹿、馬鹿、ぜんぶあんたのせいだからね! 傳らざん すきだと云ったら、もう、笑いかけてなんてくれないくせに。 ×
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