一週間 | ナノ


 朝。隣に温もりはなかった。壁にかけられた高価そうな時計はもう6時を指す。寝ぼけた頭にちらつくのは昨日目にしたあの薄紙一枚。きっともう、こっちへ向かってる。そうだよ任務なんて終わってこっちへ向かってる途中なんだ。わたしが気にするようなことなんて何もない。なにひとつ。


「あは、‥今日のごはんなんだろう」


 仰向けのまま右腕を目の上にのせてわらう。あのひとの笑顔には程遠い。なにしてるんだか、自分の為すことの意味が分からずまたわらった。1時間、2時間、3時間。ドアは開く気配をみせず、秒針だけが元気だった。




 ロビーは騒然としていた。まだ正午、いつもなら任務に疲れた隊員たちは寝ている時間帯なのに今日はどうしたのだろう。不審に思いながらいつも通りロビーに入るが、わたしに気付いたひとはいなかった。このひとたち総てがマフィアなのだと思うと気が滅入る。

 がやがやと騒ぎ立てるひとたちを部屋の隅から見守る。本当は昼ごはんをいただきに来たのだけれど何せこの人数だ。給仕の女性が数十人分のランチを持って来ても瞬く間に無くなってしまう。わたしはいつになったら昼ごはんが食べられるのですか。

「う゛おぉい!うるせえぞ」


 このくそ広いはずのロビーに響く大声を合図にしたかのように一気に静まり返る。あの叫びかた、わたしの記憶が正しければ彼しかいない。ひとつ言わせてもらえるならあなたのほうがうるさいよ、さらさら白髪男さん。
 彼はロビー全体を端からゆっくり睨みつけて場を制す。ばかなわたしでさえわかってしまった。異様なまでの緊張感を。もうわたしには嫌な予感しかしないのだ。


「スクアーロ隊長!あの方がしくじったっていうのは本当なんですか」

「うるせえ!そのことで報告だぁ」


 ‥‥‥え、?し、く、じった?あの方ってだれ。なに、なんで。こんなにも隊員たちに知られていてあの幹部であるさらさら白髪男さんがわざわざ報告しなければならないなんて、そんな立場のひと、わたしあのひとたちしか知らないよ、ねえ



「ベルフェゴールとの通信が途絶えた」





 それからはおぼえていない。目の前が真っ白になって地面がぐらりと傾いて気付いたらあの部屋のベッドの上でうずくまっていた。なにこれなんだこれ動悸がはげしい。落ち着けわたし!

 ふ、と頭に浮かんだのは昨日ザヌススさまの部屋で見たあの依頼詳細。‥あれ、そうだ、あれに書いてあった気がする、思い出せ。わたしの脆い記憶、どうか今日だけは甦ってくれないか!


「シチ、リア州カターニア」


 考えてる隙はない。上着の存在すらわすれ薄着で外に飛び出した。階段を駆け降りて入口にとめてあった車に飛び乗る。駅までお願いします!驚いていたけれどわたしの必死な形相に優しいドライバーは車を走らせてくれた。

 どうかどうか無事で


雨が止んだ土曜日



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