一週間 | ナノ


「ダウト」

「てめ、オレに恨みでもあんのかぁ!」

「知らね、だってオレ王子だし」


 ここはどこだったか。泣く子も黙るマフィア連中が真っ昼間からトランプゲームで遊んでいるだなんて一体誰が考えるか!声の無駄に大きいさらさら白髪男の手に持つそれの枚数が一気に増える。その数はさっきから減る兆しを見せないどころか増えるばかりだ。


「あっがりー」

「わたしも」

「カスアーロ先輩負け決定坊主な!」


 このマフィアの幹部たちからここまで可哀相な扱いをうけているさらさら白髪男に同情したくなったのはここだけの秘密。
 あれだけ怖かったマフィアも話してみれば普通!‥‥とは言いきれないがそこまで人道の外れたひとたちではなかった。人並みに冗談を言うし人並みに笑うし人並みに困る。まさかこんなにマフィアに抵抗を感じなくなるなんて月曜のわたしには考えられなかっただろう。


「ちっ、おい名前」

「は、!なんでしょう」

「ザンザスが呼んでる」


 ザンザス。‥誰だそれ。どっかで聞いたことがあるけれどどこだったっけ。ザンザスザンザスザンザス、ザンザ、ス


「ザヌススさまが!?」

「あ?」


 素っ頓狂な声をあげたさらさら白髪男を一瞥する暇もなく部屋を出る。今の動きはすばらしかった。まさに疾風のごとき一連!絶対誰にも真似できないよ(たぶん)!あとで殺戮きょ、‥ベルさんに自慢してやる!ってあああそれどころじゃない。ザヌススさまが呼んでるってなに!早く行かなきゃ殺される、なんでもっと速く走れないのこの鈍足!むしろ短足!もはや豚足!‥哀しくなるからこれ以上考えないようにしよう。

 いつの間にやら着いた大扉の部屋。狭いとばかりに肋骨を遠慮無く叩く心臓。ノックの音さえ心音にかきけされた。いつまで待っても返事は、ない。


「‥いないんですか?」


 そろり、もし擬態語であらわすならばそれがいちばん正しかっただろう。扉を少し開けのぞきこむ。薄暗い部屋の大きな椅子にひとはいない。ザヌススさまは完全なる留守。さっきまでの心音は嘘だったかのように平然としていた。

 扉のすぐ近くのボード一面に貼られた紙がそよぐ。なんだろうと目を凝らせば小さな字で印刷されたイタリア語。す、く、あ、ろ。‥スペルビスクアーロ。唯一手書きで書かれた筆記体はどうやら人間の名前らしい。姐様の名前やレヴィ隊トレ、なんていう変な名前のひともいた。日付はどれも今日のものである。そのほかランク、報酬、エトセトラ。きっとマフィアの任務の詳細表。わたしにはそれにしか思えなかった。


「べるふぇ、ごうる、ベルフェゴール?」


 ああこれもしかしてあのひとかもしれない。部屋に住まわさせてくれているあの男。報酬、いちじゅうひゃくせん‥102万!なにそれ!わたしが数か月も欲しいもの我慢して貯めたお金とほぼ等しいじゃないか!道理でパスポート偽造なんて簡単にしてくれるわけだ。


「今日22時から明日4時まで、ふうん」


 今日夜中いない、んだ。だからどうなるってわけでもないのにどうして引っ掛かるんだろう。ああもう焦れったい。ザヌススさまがいないんだからさっさと帰ろう、あのひとの部屋に。


不安に揺れる金曜日



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