一週間 | ナノ


 朝シャンもとい朝風呂ははげる。らしい。そんなことを馬鹿な友人に聞き馬鹿なわたしはその馬鹿な話を信じ避けていたのだ。朝風呂を。
 け れ ど


「タオルどこですかね」

「そこ」


 ああああ浴びてしまった!はげるはげるはげる!まだ華の高校生なのに!先は長いのに!あだ名がはげになったらどうしよう?きっと生きていけないよ自害するしかないのかないよね?
 そんなばかな考えを延々と繰り返すわたしに急に影が差す。用意してくれたバスローブを脱衣所に持ってくるの忘れた!思わず脱衣所から部屋を覗いてベッドに畳んでおいてある目的のものを視界にいれる。

 殺戮狂の男の前をすっぽんぽんで知らん顔で通れるか!そんな勇者では決してない。うおああと脳内で雄叫びをあげた。そのときだった。


「ほら」


 目の前に現れたのは求めていたバスローブ!どうやら神が舞い降りたらしい。一変して嬉々とした表情になるわたしを見て部屋に戻っていく殺戮狂の男、いや殺戮狂の男さま!わざわざ持ってきてくれたのだ!‥、持ってきてくれた?


「色気ねえ身体」


 まるで金魚。詞を失い飽きもせずぱくぱくと口を開閉する。

 みられた!


 一応Cありますけど!恥ずかしいだけのやるせない反論は口に出さず心に留め、持ってきてくれたバスローブに袖を通す。できれば時が止まればいいのに、あああどんな顔して逢えばいいのだ。このマフィアに関わってから碌なことがない気がする。


「バス、あ、あざーした」

「あのさあ」

「は!ら、なんすか!」

「ベル。次殺戮狂の男って呼んだらサボテン」


 それだけ言うとさっさとバスルームに消える男。サボテン?なにが。鉢植えに植えられちゃうわけか?‥ていうか殺戮狂の男って声にだしたことないんですけど!?こっわ!マフィアこっわ!


 10分後。じっとしてられなくて出た廊下でばったり逢った神もといルッスーリア姐様にきいてみたところどうやら彼の名前が「ベル」らしい。サボテンの意味もきいたがどうやらもう二度と「殺戮狂の男」と言わないほうがいいようである。まだ死にたくない!



「おい勝手に外出んな」



 不意に引かれた腕に逆らえず誰かの胸に収まる。おさ、まる?誰の。誰の!ぽたぽたと落ちてくる水滴に見上げた先は綺麗な金糸。これをもつひとをわたしはひとりしか見たことがない。ベルちゃん、と驚いた顔で姐様が言った。


「おいオカマ、女にまで手出すなよ」

「失礼ね!可愛い妹に手を出すわけないでしょう」

「こいつオレのだから」


 扉が閉められる直前、姐様の驚く顔が見えた気がした。わたしを抱きすくめたまま床に崩れた彼のせいで必然的にわたしも崩れる。拭えていない髪の水滴が冷たいけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

ねえ、こんなにも心臓がうるさい訳を、誰でもいいから教えてよ。


全てが恋しい木曜日



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