手を繋がなくなったのはいつだったか。2人で遊ばなくなったのはいつだったか。名前で呼ばなくなったのはいつだったか。話さなくなったのはいつだったか。目さえ合わせなくなったのは、いつだったか。幼なじみとは名ばかりで、実際今では顔見知りよりも遠い関係である。 学級日誌に名前を綴り、一日の日課を書き入れようと顔をあげたときだ。見知らぬ女の子に笑顔を向けるその男が視界に入り手を止めた。小さい頃とはまるで変わったその笑顔に気分を害され無理矢理目を閉じる。悪意のかけらもない過去のあいつは、とっくの昔に瞼の裏から消え去っていた。 放課後。ジュンク堂で新刊を手に取るわたしの隣に見覚えのある制服が列ぶ。 「こういうの読むんだ」 「‥折、原、くん」 何年かぶりに話した彼の声はやっぱりわたしの知っているものとは違っていた。あの頃とはまるで別人で、知らないひとのようで彼の方を向くことが出来ない。 「わたし、用がある、ので、失礼します」 「まあそう逃げないでよ」 どうせ用なんかないだろ? 掴まれた手を振り払えなかったのは、そう確信めいたように問うた彼が恐ろしくて、‥いや、心のどこかで、また昔のような関係に戻りたいと願う自分がいたからだ。 グッバイ 「折原くん、どこ行くの」 「昔遊んだ公園にでも。‥さて、とりあえず」 「?」 「約束は覚えてるよね?」 「あ、う、え?」 「いざやくんいざやくん」 「なに?」 「わたし、いざやくんのおよめさんになりたい」 「‥‥ばかじゃないの。あたりまえだろ」 |