「今日も帰ってこないの!?」 『なにそんな驚いてるの、いつものことだろ』 「なにって臨也く、‥‥ううん、なんでもない。気をつけてね」 四角い小さな機械を耳から離し近くのソファーに放り投げる。そう、この家に無理矢理住み着いた頃から彼は帰ってこないことが多かったし、それを気にしたこともなかった。だが今日は例外だ、彼もそれを知っているはずなのに。 「あーあ」 ろうそくさえ立てることのなかった1ホールのケーキを箱ごとごみ箱に棄てる。いつだったか彼が美味しいと呟いた店の限定品。競争率はデパートのバーゲン並。ちょっと頑張ったんだけどな。 5月4日午後9時3分。寂しくなってどうしようもなくて、眠くもないのに仕方なく眠りについた。 大きな組が相手の取引は予想通り引っ張られて長引いて、寝る間もなくまた1日が終わった。ようやく解放されたのは夜も明けない午前4時、さすがに今回ばかりは俺も疲れた。タクシーを拾って帰ったが記憶が曖昧だ。ああ、眠い。この何日かの情報収集と整理、依頼の確認もしなければならないのに、今日は仕事にならないだろう。 シャワーだけ浴びてリビングへ戻る。やはりあの女は寝たらしい。執着がないのかただの馬鹿なのかは分からないが、黒のソファーの隅にあの女の携帯が転がっていた。毎朝6時にセットされているアラームがこのリビングで鳴られても迷惑なので面倒ながらも身体に鞭を打った。 意味も無いだろうとノックせずに扉を開ける。ベッド横の小さなテーブルにそれを置いた。 ここに居着いたその日からここはこの女の部屋である。‥そうだ、のんびりしてる暇は無い。さっさと部屋に戻って資料を片付けて、‥‥? 視界の端に飛び込んだ、ごみ箱から優にはみ出す正方形の箱。有名な洋菓子の人気店のロゴが入ったそれに、俺はようやく思い出した。それからはもう自分でも理解出来ないくらい良く分からないものが込み上げて、気付いたら夢の国で遊んでる馬鹿な女の額に唇を落としていた。今夜は覚悟するといい。 謳歌 「んあ、やっ、いざやく、ふあ!」 「俺も眠いんだよね、だからあと3回くらい我慢してくれる」 「さ、っ? や、あ っ」 「ああ、そうだ。美味しかったよ、ケーキ。ありがとう」 |