「たとえばわたしが消えたとして。臨也くんはわたしを捜してくれますか」 ひどく虚ろな目と視線が重なった。光を総て吸い込んで消し去りそうな黒が俺を射抜いていたのだ。この女は時折こうして壊れかけ修復が出来ぬまま少しずつ劣化している、それは精神的な意味で。 「さあね」 「答えてください」 「それを訊いてどうするの?意味の無い問いに答える義務は俺にはない」 「ききたいんです、わたしが、わたしのために」 コーヒーからのぼる湯気が空気に融けてなくなる。ああ、そういえば今日は新しい豆にしたんだっけ。ふわりと薫る独特の香りが部屋を包んでいた。 「捜すよ」 「どこまで?」 「うん、半径3キロあたりまで」 「‥‥せま、普通ここは嘘でも世界中とか言うべきで、」 「だから、」 ことん、カップの中身を飲み干して皿に戻す。今日の彼女は珍しく饒舌らしい。痛いほど突き刺さる視線に気付かないふりをして、俺は笑んだ。 「だから。‥許可なく俺の傍を離れちゃいけない、ってこと」 てんでんばらばら 「な、‥意味わからない!」 「そう?随分わかりやすく云ったつもりだったんだけど」 「わか、わ、わかりません、わかりたくありません!」 「じゃあ仕方ない、こっち向いて」 「なんです、か、‥‥‥」 「‥‥」 「‥‥」 「‥‥」 「‥‥!!??」 「ごちそうさま」 「なっ、い、いま、う、うああああ!」 「あ、照れた」 |