男の癖に華奢なからだを貫いた鉛が薄暗い路地の壁にめり込む。被弾した男は衝撃に耐えられずその壁にもたれ掛かり地面へ吸い寄せられた。腹部から溢れ出す緋色がアスファルトに広がる。わたしの、目の前で。 ああ、なんて、 苦痛に歪むはずのその端整な顔は予想に反し終始笑顔だった。何故。何故。何故。何故。 「いざやくん!」 顔についた返り血に気付かぬまま彼の頭を膝の上に乗せる。いざやくん、いざやくん、わけもわからず名前を連呼するわたしの頬に伸びてきた彼の白いはずの指は血にまみれていた。 「年貢の納め時かなあ」 「なにいってんの、なんなの、いざやくん、」 「きみのそんな顔が見れたからまあいいか」 「いましんらくんよぶから、う、あ、セルティよぶから、だから」 「ああ、そういうのはいいや。あんまり時間ないんだ」 首のうしろにすべった手はそのままわたしを引き寄せる。目を見開くわたしに笑む。一瞬だけ触れた唇は、鉄の味がした。 「目、つむるのがマナーだろ。馬鹿」 するり。 首のうしろに回されていた手が地に落ちる。やだ。やだ、やだやだやだ嘘でしょう! 「いざやくん!」 「、うるさいよ」 「ふざけないでよ、まだお仕事いっぱい残ってるんだから!臨也くんがいなくなったら誰がやると思ってるの、馬鹿はどっちよ!意味わかんない、いみわかんないよ、いざやくん、」 しなないで。 掠れて音にならなかった声が届くはずもなかったのに、まるで分かってるとでも言うように握る力を強められる。滲んで見えない彼の顔は、いつもより白い気がした。 「 」 臨也くんの、うそつき。 情操に死す からりと音をたてて転がったナイフを手にとる。自分の左胸にちらつく赤いレーザーポインタを一瞥して、それを遮るように突き刺した。 あんたに愛のことばなんて似合わないのよ、優男。 |