黒で身を包む。グラスの中の氷がからりと音をたてた。 開いた窓の向こうからクラクションが聞こえて、わたしは窓もグラスも放ったまま外に出る。陽射しがやけに眩しくて目を細めた。 「久しぶり、新羅」 「用意できてる?」 「何もいらないでしょう」 「‥そうだね」 タクシーが新羅とわたしを飲み込んで走り出す。新羅の恋人もとい首無しライダーは愛馬ですでに向かっているらしい。 ミラーにうつる自分の顔に吐き気がした。 着いたホールにはもう大体の人が揃っていたようだった。わたしと新羅は受付を済ますと適当なソファに座る。まあ新羅に限っては、恋人を視界に捉えたのか「セルティ!」と叫びながら走り去ったが。 「なんて寂しいひと」 こんなに大きな式場なのにたったこれだけしか人が集まらないなんて。日頃から人に恨まれやすい仕事ばかりこなしていたけれど、まさかここまでとは。そもそもこの式を挙げるのにかかった費用を誰が払うのか?、そこまで考えてあいつの部屋の隅に置かれていた金庫を思い出した。 「それでは皆様、準備が整いましたのでこちらへどうぞ」 係員に案内されたそこはやはり大きすぎて、なんて金の無駄遣いだと始終嗤いをこらえるのに必死だった。次々と前からつめて座るひとたちを横目に、わたしは一番後ろの席を陣取る。 お経だとか焼香だとか、あの男がそんなもので成仏するはずもないのに、なんて意味の無いことをするのかしら。 いよいよ出棺だと聞いて、とうとう何人かが嗚咽をあげた。柩を囲むように駆け寄ったあいつの取り巻きたちは声をそろえていかないでいかないでと漏らす。 「(飽きた)」 その取り巻きたちをかきわけて白を着て眠るそいつに近付く。座っていた新羅のわたしを呼ぶ声が聞こえた気がした。長いスカートをたくしあげて、そして、思いっ切り、 「さよなら、情報屋」 赤いハイヒールで柩を蹴った。 左手の薬指から指輪を抜いて排水溝に投げ捨てる。懐から取り出した携帯の着信履歴は一昨日で終わっていた。もう二度と出るはずのないその番号にリダイヤルをして、数秒。 「ねえ臨也、死後の世界に天国は存在するの?」 あってもなくても今から行くから、首を洗って待ってなさい。 宴 |