世界で初めて翻訳家になったひとは地球でいちばん頭の良いひとだったんじゃないかと思うんだよ、ねえどう思う?‥ちょっと、きいてる? そうほざくこの女こそ地球でいちばん頭が弱いんじゃないかと思う。いきなり部屋に押しかけて冷蔵庫からオレの大切なハーゲンダッツの最後のひとつを腹におさめたと思ったら一方的に話し始めて。毎度毎度ことごとく安眠を妨害されるこっちの身にもなってほしい。 「それでねスクアーロが昨日わたし特製歯磨き粉入りシャンプーで髪洗って」 「翻訳家の話はどこに拐われたんだよ」 「わたしの話ちゃんときいてよ!」 「むしろおまえがオレの話をきくべきだって」 空になったスチール缶を隅のごみ箱に投げ入れるその女とはもう8年の仲だけれど一向に脳内の理解は出来ないままだ。時計を見れば午前5時、せっかくのオフなのに朝になるまで寝かせてもらえないなんてほんとうに勘弁してほしい。途中で無視して寝ようとしたけど横になったオレの腹をトランポリンにされちゃ眠れるわけがないだろう。 「スクアーロばかだから髪乾かすまで気付かなかったんだって、うけるよね!」 ソファとお揃いのクッションを床にたたき付けて笑い悶える。はた迷惑なマシンガントークの持ち主は全世界共通でロウテンションを知らないらしい。それにしてもどうして話題がつきないのだろう、思考回路がおかしいのだろうかという残念な女に対する心配は尽きる気配がない。 チョコレートをひとかけら口に含んだ彼女に凝視されて思わず見つめる。静寂の数秒はやはり彼女にぶち壊された。 「わたしほんとうは今日午前0時から任務だったの」 「、は?‥ちょ、何考えてんのおまえばっかじゃねーの!ボスにコオォォされてーのかよ!」 「あは、そうカリカリしないでよ!そろそろボス気付くだろうし自分の部屋心配だから帰るね」 救いようがねー馬鹿だよ。もう全部わかってんだぜ、おまえがスクアーロのシャンプーに歯磨き粉入れたの後悔してることも、今日誕生日だっていうのも。誕生日はオレと過ごしたいなんてなんてかわいい奴!さあどうしよう。とりあえず小さな背中追っかけて乱暴に抱きしめてやろうか! |