「いい加減にしなよ」 その言葉と同時に飛んできた鉄の塊はわたしの左頬を掠った。ちりちりとした痛みがシナプスを経由する。半開きの扉の向こうに人の気配は皆無、イコール助けは望めない。 くすりと自重すれば反感と判断したのか彼は再び素晴らしい速さでもうひとつのトンなんたらという意味のわからない名前の鉄の塊をわたしの喉に突き付けた。 「何の話です」 「その無い脳で考えたら」 「すきになっていただける覚えならありますけれど」 「僕が君を?ありえない」 次に息をついたときにはもう既に撲られていた。がんがんする頭は痛みを通り越して熱い。あれ、これ血でてるんじゃないの。吹っ飛ばされたからだを無理矢理起こす。これって理不尽じゃない? 黒の襟を引っつかみ乱暴に彼の唇に自分のそれを重ねた。鳩尾に鈍い衝撃。勢いよく頭からぶつかった壁は少し揺れたのみ。 「もう二度と僕に近付かないでくれる」 「、‥いいですよ」 それ以上近付くことが出来無いほどの傍で生きて差し上げますから。 見下す瞳が僅かに見開かれる。けれどそれも一瞬で、部屋の端に落ちたトンなんたらを拾う。なんて美しいひと。 「君は懲りない馬鹿だ」 身を翻した彼が微笑ったような気がした。 ワンウェイ |