追いかけるのは怖い。追いかけられるのはもっと怖い。わたしはただ、動かずに。何かが落ちて来るのを待っている、だけ。 「なあ何回言ったらわかんの」 「しらない」 「すきだすきだすきだ」 「しつこい!」 初めて逢ったのは七年前。彼が弱冠8歳にしてこの冷徹な暗殺部隊に入隊したときだ。当時は無口でまるっきり笑わなくて、ただ歳が近いというだけで教官役に抜擢されたわたしはこれでもかというほど苦労させられた覚えがある。いくら暗殺の方法を教えてもいうことを聞かず正面から敵に突っ込む始末。どんなに言ってもきかなくて、いい加減呆れてつんけんしたらこのざまだ。 追いかけられるのが嫌いな理由?そんなの決まっているじゃないか、追いかけられて追いかけられてある日突然嫌われたとき、想像以上に傷付くからだ。そんな寂しさを味わいたくないから追いかけられるのは嫌いなんだよ、ましてや自由気ままなベルフェゴールなら、なおさら。 「なー聞いてる」 「聞いてない聞こえないむしろ聞きたくない!」 「‥ふーん」 その次の日、そのまた次の日も。彼がわたしのところへくることはなかった。 ほうらね、やっぱり離れて行くじゃない。清々するわ、いつもいつも後ろをくっついてきて暇さえあれば本気でもないのに愛の言葉をささやいて。なんで信じてくれないのだなんて、そんなの当たり前。今あなたが傍にいない、理由なんてこれで充分だわ!だなんて、ああ、もう、ほんとうに、 だから追いかけられるのは嫌いなのよ! 「ベル!」 なんて滑稽。あんなにも拒んでいたそれを今度は相手に押し付けることになるなんて。捜し回って見つけた後ろ姿に勢い良く抱き着いてふたり一緒に倒れこむ。 わたしを本気にさせといて逃げるなんて許さないんだから。 耽溺 返ってきたのは予想とは真逆の、わたしのそれに落とされた唇。 |