みじかい | ナノ



 妹がいる。信じられないほど中身は大人で本当に年下なのかと疑いたくさえなる。でも所詮は年下でそれなりのことばをかければ簡単に感情が水になるものだ。仕方無しにわらえばあいつもわらう。いつのまにやらオレの隣に泣き顔があることが当たり前になった。それを保持するのに犠牲さえ厭わなくなったのはいつからだったか、もう憶えていない。



 兄がいる。信じられないほど中身は子供で本当に年上なのかと疑いたくさえなる。でもつまるところ年上は年上でそれなりの喧嘩には簡単に負に屈してしまうものだ。喚くわたしを宥めようとわらうあのひとが可笑しくてつられてわらう。このいたちごっこはわたしが七歳になるまで終わることはなかった。七歳になる、まで。


「兄、様」


 開けた窓の向こうから凄い音が聞こえてたのは知っていた。ドン、というよりズンに近かった。地面が重圧に耐え切れず物体が沈むような音。何事かと窓から覗き込もうとしたけれど七歳のからだじゃあ高い位置に造られた窓枠にさえ届くはずも無く。
 どうしてだったか。身長が足りなかった、ただそれだけのことなのにどうしようもなく虚しさが溢れ出して止まらなかった。知識の少ない七歳の脳は涙を流す他の手段を知らなかったのだ。


 数十分後未だに啼んでいたわたしを宥めたのはやはり兄様だった。乱暴に開かれたままの扉から入る風が寒くて痛くて耐えられないと何故だか今日は言う気になれなかったのはきっと、兄様がいつもと違うような気がしたからだったと思う。


「に、さま、」

「なあ良く聞けよ、今からおまえ北東の道走り続けろ」

「‥え、」

「ぜってー止まんな、もし誰かが追っかけて来ても振り向くな。いーこだから解るよな」


 ねえどうしたの兄様。なぜそんなにもこわい顔をしているの?わたし棄てられちゃうの、やだ、いやだよ兄様。わたしずっとここにいたい。兄様たちと遊びたい。わたしのこと嫌いになっちゃったの、ねえ、兄様!


「に」

「あいしてるよ」


 一瞬だけ触れた唇を最後にわたしは兄様と逢うことはなかった。




 何年が経ったか、たどり着いた小さな町の孤児院で日々を過ごしていたわたしはしあわせだった。いきなり現れた余所者だと同年代の子供にいじめをうけたり生活は困窮だったりと苦しかったけれど、それでも優しく接してくれた先生のおかげで笑顔は絶えなかった。
 わたしが十五歳になったばかりの雨の日だった。体調が悪いと零していた先生が斃れたのだ。おまえのせいだと皆に言われつづけるうちに本当にわたしのせいだと思うようになった。確かに先生にいちばんくっついていたのはわたしだったのだから。先生がしんだ、次の日だった。


「うわあああ!」


 孤児院を出て行こうと少ない荷物をまとめていたときだ。突如として部屋に飛び込んできた子供は深紅に染まっていて、わたしの脳は止まった。正確には何かを考える余裕がなかった。数秒後その子供はわたしの目の前で首をはねられていた。


 返り血が顔にはねる。犯人を見上げる気などなかった。ああやっとしねるのか。いままでにない歓喜が頬を濡らした。先生、今から逢い、に



「見いつけた」



 不意に抱き上げられたからだは筋肉が凍りつき役目を果たさない。声、におい、わたしがずっと焦がれていたあのひとだとわかるのに時間はいらなかった。



兄妹



 すきだすきだすきだ、幾度伝えても足らないこの感情をなんと呼べばいいのか


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