だから何だって言うんですか。 ひとりでにうまれたわけじゃあない。父上がいて母上がいて、おじいさまおばあさま、そのまた祖先がいてわたしがいる。そんな命を無下に扱うな、いやというほど教わった。だから大切にしてきたじゃないか。まわりに誰もいなくなるあの日まで。 「もう降参?」 「そう見える?」 「ししっ」 もう必要ないんだよこんな命。護るべきものも護りたいものもなくなって生き抜く意味が消え去った。人間なんてそうなったらあとは朽ち果てる宿運。それならその命をどうしようとわたしの勝手だ。どうせ無様に朽廃するならここで死に逝くほうが何倍も何十倍も有意義でしょう? 「ねえ、プリンスザリッパー」 あなたに棄てられない何かはありますか。迫るナイフを刀で制し愉しそうな彼に問う。くつり、彼らしくもない笑いを一度零してまたひとつナイフが飛んだ。 「おまえと一緒」 「でしょうね」 護るべきものなんてただのひとつもない。護りたいものなんてただのひとつもない。ただどうしても棄てられないのは、境遇が真逆のわたしたち共通で殺し、たったそれだけ。 そのたったひとつの共通点さえあと数分でなくなるけれど |