オレの短かった人生のなかでたったひとり。唯一見てて飽きない奴がいた。 「もうジル!ベルに変装してる暇があるなら課題終わらせなさい!」 「何言ってんのオレまじでベルだけど」 「はーい部屋に戻りましょうね次期王さまー」 「‥ち」 服を交換してもベッドを交換しても何してもあいつだけはふたりを間違えなかった。いつもいつも迷わずオレをジルだと、もうひとりのオレの片割れをベルだと言い当てる。どうしてだかそれがひどく癪に障った。父様や母様、更にはオルゲルトでさえも見分けがまるでつかないのに何故同い年の女が。 「特別だし」 「あ?」 「あの女は特別なんだよ。オレらの見分けが何でつくのか、そんなん理屈じゃねーだろ。あいつは」 「あ、ベルここにいたの」 噂をすればなんとやらってやつ?城の陰からあたまを覗かせてにこりと笑うその表情に見とれていただなんてベルに言ったら腹がよじれるほど笑われるのだろう。 「なに」 「わたしの紐しらない?昨日ベルの部屋に置いたままにしちゃったんだと思うんだよね」 ほら。そう言って右ポケットから淡いブラウンのリボンを差し出した片割れ。‥あっは、なにそれ、ちょううける。昨日?部屋?なにが?ああなんでオレこんなむかついてんだろ、べっつにオレには関係ねーじゃん。なあ。 「あ、ジル!王様と王妃様がジルを捜してたよ」 「‥ん」 うまれたときからずっと手に入らねーもんなんかなかったんだ。王位正統後継者の称号も両親の愛も庶民共の敬虔もありとあらゆる才能も。使用人だって片割れよりオレの面倒をそれこそうざったい程にみやがるし、執事だってついてるのはオレだけだ。なのになんだろうなあベル。その女。このオレ様がたったひとりの雌を掌中に収めらんねーとは滑稽にも程があるってもんだろう。 寓意に染まる貴顕 結局はあの女が心底すきだったかも知れねえってことだ。 |